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世界一ていねいかもしれない「今夜はブギー・バック」の解説【後編】(smooth cover)

はじめに

 前編では、ブギーバックの原曲に焦点を絞り、その誕生や特徴について書いた。後編では、無数に存在するカバー(アンサー、リミックス、セルフカバーも含む)を紹介・分析し、さらに深く掘ってゆきたい。

 ブギーバックのカバーを語る上でまず触れておきたいのが、小沢健二のサイト「ひふみよ」で2011年9月6日に発表された「矢」という文章だ。ネット上で全文読めるので、部分的な引用はしない。原文を直接ご覧いただきたい。
「矢」(横書版)
 本稿では、この「矢」にて「名を挙げて感謝し出すと何億光年も行きますが」と述べられているほどの数のカバーを、無謀にも網羅し、何億光年も(……まではいかなかったが、結果的には約8万文字になってしまった)の旅に出たいと思う。

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世界一ていねいかもしれない「今夜はブギー・バック」の解説【前編】(nice original)

はじめに

 BEAMSの創業40周年記念のプロジェクト「TOKYO CULTURE STORY」の第一弾で公開された『TOKYO CULTURE STORY 今夜はブギー・バック(smooth rap)』。すでに多くの人たちが話題にしているように、素人目にもわかるほど大変な手間をかけて撮られたであろう、素晴らしい作品だ。
www.beams.co.jp
www.youtube.com
 
 1976年から2016年までのファッションとカルチャーをなぞった衣装や小道具・セットももちろん凄いが、何より印象的なのが、豪華なミュージシャンたちによって代わる代わる演奏・歌唱される「今夜はブギー・バック」(以下「ブギーバック」)の圧巻ぶり。
 参加ミュージシャンは総勢17組で15ジャンル。それぞれの時代とジャンルを象徴するアレンジでブギーバックを披露している。
 以下、BEAMSのプレスリリースより引用。

1970年代: 南佳孝 [シティ・ポップ] / 戸川純 [ニューウェーヴ]
1980年代: SEIJI(GUITAR WOLF) [ロックンロール] / こだま和文(ex.MUTE BEAT) [ダブ] / 森高千里 [ダンス・ポップ]
1990年代: EYE(BOREDOMS) [オルタナティブ・ロック] / 野宮真貴 [渋谷系] / サイプレス上野・高木完 [ヒップホップ]
2000年代: HUSKING BEE [メロコア] / ナカコー&フルカワミキ (LAMA/ex.SUPERCAR) [テクノ/エレクトロニカ] / クラムボン [ポストロック] / sasakure.UK feat. 初音ミク [ボーカロイド]
2010年代: チームしゃちほこ [アイドル] / tofubeats・仮谷せいら [クラウド・ラップ] / YONCE (Suchmos) [アシッド・ジャズ/ロック]

 
 1994年3月9日のリリースから、12年余り。今回の例に限らず、ブギーバックは無数のミュージシャンたちにカバーされてきた。原曲ではなくカバーから先に触れた人も多いだろう。
 日本のポップ・ミュージック全体でみれば、もっと数多くのミュージシャンにカバーされた楽曲はいくらでもあるだろうが、少なくとも日本語ラップのなかではダントツのカバー数のはずだ。
 ただし、(本人たちの最大級のヒット曲であるとはいえ)当時のCD市場の規模を考えれば、日本中の人が耳にしたほどの「大ヒット」ではない。その証拠に、1994年の年間チャートを見てみると、
トップ10はおろか、50位以内にもランクインしていない(2種類のバージョンで別々に順位付けされていることもあるだろうが)。BEAMSのプレスリリースによれば「五十万枚を超えるヒット」だったそうだが、それでもやはり当時においては、けっして「大ヒット」ではなかったのだ。
 ――にもかかわらず、どうしてブギーバックは、これほど多くのミュージシャンを惹きつけ、そして今もなお歌い継がれているのだろう?
 
 この疑問に対する明確な回答はできない。強いて言うなら、「才能あふれるミュージシャンが、もっとも勢いのある時期に、最高のタイミングで世に出した曲だから」といった凡庸な言葉でしか表しようがないと思う。
 ただ、さまざまな周辺の状況を整理して、世界一ていねいかもしれない(「詳しい」と自称するのは憚られるため、あくまで「ていねい」)レベルで、この曲について可能な限り事細かに解説していきたいと思う。
 なお、ひと通り書いてみたらとんでもない分量になってしまったので、前半は「nice original」と題して、原曲に話題を絞って書いてゆきたい。

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5000円で味わえる、最高の一夜。「スパイスカフェ」初体験記

 押上の「スパイスカフェ」へ、初めて行ってきました。
f:id:kagariharuki:20161008202747j:plain
spicecafe.jp
 
 カレー好きの間では以前から大変な評判だった「スパイスカフェ」ですが、予約がほぼ必須と聞いていただけに、なかなか足を向ける機会がなかったのです。
 そんな折、ちょうど押上方面へ行かざるを得ない極めて重要な用件が発生。調べてみたら、ちょうどスパイスカフェも数ヶ月にわたる休業を経て、10月から新装開店する! とのことで、すかさず予約をとって向かいました。
 
 で。行ってみたら、これがもう、大変に素晴らしい体験でした。
(10月のコースメニューを事細かに紹介しているので、10月中に訪問予定の方はネタバレにご注意ください)

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「シン・ゴジラ音楽集」も最高なので、「シン・ゴジラ」を観た人はみな買うべき

 「シン・ゴジラ」。本当に素晴らしい映画です。
 既に凄い熱量と情報量が込められた力強い感想がたくさんネット上に上がっているので僕の出る幕なんて無いかな……と思いつつも、やっぱり素晴らしい作品のことはやっぱり自分の言葉で全力で褒めちぎりたい。ということで書きます。
 主なテーマは、まだあまり言及されていない(気がする)、本作のサントラ「シン・ゴジラ音楽集」です。

シン・ゴジラ音楽集

シン・ゴジラ音楽集

(2016.9.28 追記)
 本エントリに辿りついた方の多くが既にご存知かもしれませんが、日経ビジネスオンラインの片山杜秀先生へのインタビュー記事「音楽から“深読み”する「シン・ゴジラ」 そして伊福部音楽が耳に残るワケ」において、光栄にも、拙稿を参考文献としてご紹介いただきました。
 音楽を軸にこんなにも明瞭に「シン・ゴジラ」の構成を解き明かせるなんて、と目から鱗が落ちまくりで、僕にとっては「模範解答」と言いたくなるような素晴らしい内容でした。そして続編の予想も最高です(もし実際にそうなったら賛否両論に分かれるでしょうが……)。
 あわせてぜひお読みください。
business.nikkeibp.co.jp

 

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「言葉は都市を変えてゆく 小沢健二 美術館セット×2」金沢21世紀美術館2016.6.21ライブレポート #ozkn

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はじめに

 いよいよ大詰めを迎えている小沢健二さんのツアー「魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ」。
 その番外編的なアコースティックギター弾き語りソロライブ「言葉は都市を変えてゆく 小沢健二 美術館セット×2」が、金沢21世紀美術館と大分県立美術館の2ヶ所で行われています。
 今回のツアーで初お披露目となる新曲を含めたセットリストで、今回バンド編成のほうではやっていないモノローグの朗読もあり。小沢さんが昨年の「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」で弾き語りライブをしたときと同じような構成です。
 
 本エントリは、このうち、2016年6月21日(火)金沢21世紀美術館(以下、21美)でのライブレポートになります。
 (2016.6.27追記)自分は大分に行けなかったのですが、大分へ行かれた方のお話を元に、ほんの少しだけ追記しました。
 
 事前(前日の夜遅く?)に「モノローグ中のSNS文字発信のみ可」とのアナウンスがあったので、今回も例によってTwitterで実況をがんばりました。


 というわけで、前回のクアトロや前々回のクアトロのように、今回もTwitterで実況したときの記録を下地に*1、実況が追いつかなかった箇所の補足をしながら時系列順に振り返っていきます。
 
 なお、(バンド編成のほうのライブとはセットリストが大きく異なるものの)新曲のタイトルや曲のアレンジの比較など、これから福岡で観る予定の方にとってもネタバレになる要素が含まれているので、どうかご注意ください。
 
(関連記事)

  • 前回のクアトロ実況

  • 前々回のクアトロ実況

  • 今回のバンド編成のほうのライブレポート

*1:と言いつつもほとんど原型を留めていませんが

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小沢健二「魔法的」の“あの動き”をおさらいしよう #ozkn

 現在、終盤にさしかかっている小沢健二さんのツアー「魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ」。
(ライブレポートはこちら↓)
kagariharuki.hatenablog.com
 
 すでに行った方ならご存知の通り、今回は“あの動き”が大変に印象的です(ネタバレ防止のためオブラートに包んだ表現)。
 一度観ただけではなかなか覚えきれない“あの動き”、それを写真でおさらいしよう、という内容です。
 
 今回は完全にネタバレ(というか観ていない人にはさっぱり伝わらないはず)ですので、これから行く予定の方はくれぐれもご注意を。

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山下賢二「ガケ書房の頃」(夏葉社)

僕たちは本屋さんに「WE STILL LOVE YOU」と言い続けられるのか?

 
 山下賢二「ガケ書房の頃」(夏葉社)。
 中野ブロードウェイの「タコシェ」にて、比較的目立つところに平積みされていました。

ガケ書房の頃

ガケ書房の頃

 京都の個性的な本屋「ガケ書房」(現在は移転し「ホホホ座」)の店主による、「外で一言も会話しなかった」幼少期のエピソードに始まり、本屋開業までの紆余曲折の青春時代、そして「ガケ書房」の苦闘の日々から「ホホホ座」誕生に至るまで、著者の半生がたっぷり語られたエッセイです。

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