「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」11年の功績を振りかえる/TBSラジオ最良の遺伝子を受け継ぐ番組「アフター6ジャンクション」 #utamaru

 2018年3月31日(土)、TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」(毎週土曜日22~24時)が最終回を迎えた。
 翌々日の4月2日(月)には後継番組「アフター6ジャンクション」(毎週月~金曜日18~21時)が開始しているので、打ち切りではなく前向きな終了といえよう。とはいえ11年も続いた番組に区切りがつくのだから、やはり感慨深いものがある。
 そこで、あくまで1人のリスナーの視点ではあるが、「タマフル」の功績を振りかえるとともに、新番組「アフター6ジャンクション」についても触れてゆきたいと思う。

▲3時間放送時代の番組ステッカー(筆者私物)
 
 本稿は、以下の4部構成でお届けする。

 ……が、その前に、ざっとタマフルがどんな番組なのか簡単におさらいしておこう。

「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」とはどんな番組か

 TBSラジオ「ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル」、通称「タマフル」は、2007年4月に放送開始。放送枠の尺自体は数回変更されているが、時間帯は土曜の夜で一貫しており、番組終了時点では22~24時の2時間放送となっていた(最も長かった時期は3時間)。
www.tbsradio.jp
 ちなみに略称の「タマフル」は、インフルエンザの治療薬「タミフル」のもじり*1で、番組初期はタミフルの副作用「異常行動」に引っかけて「異常放送」を標榜していた。
 
 番組パーソナリティーはライムスターの宇多丸。宇多丸個人がメインパーソナリティーを務めるのはタマフルが初めてで*2、「マブ論」*3や「ブラスト公論」*4などの活字媒体や、「申し訳ないと」での日本語曲DJなど、それまでの宇多丸の(ライムスターとしての本業とはまた別枠の)活動の延長線上にある企画が(とくに初期の)タマフルの柱になっていた。

 番組の構成はざっと以下のとおり。

・オープニングトーク
・投稿コーナーor特別企画
・週刊映画時評ムービーウォッチメン*5
・DISCO954(DJコーナー)*6
・特集コーナー「サタデーナイト・ラボ」
・ぼんやり枠(~2015年3月)*7
・エンディング&次回予告

 「マブ論」「ブラスト公論」等の活動の延長線上にある宇多丸の持ちネタ(主に番組初期)やさまざまなゲストを招いて他の番組には無いようなテーマを扱うのが特集コーナー「サタデーナイト・ラボ」で、「申し訳ないと」の出張コーナーとして始まったのがDJコーナー「申し訳ないとフロム赤坂」(のちに「DISCO 954」に改題)。
 番組初期の手探り感を、宇多丸はこう振りかえっている。

 この番組の放送が始まった最初の1年は、番組のフォーマットがあまり固まっていなくて、本当にグニャグニャしていました。どうやって毎回乗り切っていたんだろうと思いますし、実は記憶もあまり定かではないんですよ。ただおぼろげな記憶を振り返ってみると、今でいう「サタデーナイト・ラボ」にあたる特集コーナーは、当初30分しか時間がなくて、それまでの僕の引き出しの中に溜めてきたものをどんどん出していく感じでした。僕がそれまでバラバラの場所で展開していた評論活動やら持論やらを、改めて放送に乗せてみる、という感覚ですかね。
(出典:『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル “神回”傑作選 Vol.1』スモール出版)

 なにしろ初代プロデューサーの橋本吉史(通称・橋P)は当時20代で、番組をイチから立ち上げたのはタマフルが初めて。今では「放送作家」がメインの肩書きになっている古川耕も、タマフルのレギュラー放送前のパイロット番組「ライムスター宇多丸・独演会」(2007年1月放送)の際に宇多丸から「俺の高田文夫になってくれ!」と口説かれる*8まで、ラジオの放送作家を務めたことはなかった。
 そんななか、番組2年目を迎える前にベテラン放送作家・妹尾匡夫が番組アドバイザーに就任し、映画評論コーナー「ザ・シネマハスラー」を始めたあたりから風向きが変わってくる。この当時の様子は、宇多丸自身も「数字は最初の一年ぐらいは全然ダメで、このままだと番組終わっちゃうって騒ぎ出したぐらいから調子よくなってきたんだよな」*9と振りかえっている。
 では、その風向きを変えた大きな要因、映画評論コーナーの話から本題に入っていこう。

タマフルの功績(1):作品と真っ向から組み合う映画評論コーナー

 タマフルの看板コーナーといえば、映画評論コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」(2013年に「ザ・シネマハスラー」から改題)。
 なにしろ宇多丸のことを「ラップをする映画評論家」と捉える著名人がいるほどだ。番組本編を聴いたことがなくとも、このコーナーだけはPodcastやラジオクラウド、書き起こし等で触れている人も多いと思う。
 
 コーナーの趣旨は簡単だ。
 ――20~30分間、ランダムに選ばれた課題映画について、一人喋りで評論する。
 これだけ。でも、これがいかに大変なことか!
 
 聴いたことのある人ならご存知だろうが、評論のために宇多丸はとにかく「調べる」
 課題映画を劇場で複数回観るのは当たり前。海外でソフト化済みなら取り寄せて音声解説等も含めて復習し、監督の過去作や関連作、原作や関連書籍もチェックし……と、1週間のうちに調べられることは徹底的に調べ尽くして、その知識と自分なりの解釈をノートに書きつけた上で、毎週の放送に臨んでいる。これを10年間も、ほぼ毎週無休で続けているのだ。
 本職の評論家でも、これだけの手間をかけて毎週1本ずつ評論するのは難しいと思う。
 
 筆者も以前、このスタイルを真似して毎週(映画ではないけど)1作品ずつ徹底的に組み合うかたちでレビューしてみたことがあるが……まあ大変だった。全然もたなかった。時間的にも労力的にも、毎週コンスタントにこなすのは相当きつい。
 音楽活動や他の執筆活動・番組出演等と並行して、10年もほとんど休まずにこのボリュームの映画評論を毎週続けているのは驚きだ。毎週続いているからこそ、ついつい当たり前のように感じてしまうが、尋常じゃない。
 
 しかも、この評論が活字媒体ではなく生放送のひとり喋りで披露される。
 理屈を駆使した歯切れの良い喋りは宇多丸の十八番。大変な手間暇をかけての下調べと、天性の喋りのスキル。そりゃあ面白いに決まっている。
 「ザ・シネマハスラー」が始まったのは番組2年目の2008年だが、この映画評が早々に評判を呼び、翌2009年のギャラクシー賞で宇多丸がDJ・パーソナリティー賞を獲得。リスナーにはあまり関係のなさそうな話だが、スポンサーのつかない時期の長かったタマフルにとって、一種の「箔」がついたことは番組を継続させる上で大きな効果があったと思われる。
 
 宇多丸の映画評、とくに「ザ・シネマハスラー」期に世間の注目を集めた大きなポイントといえば、当時ヒットを飛ばしまくっていた(主にTV局主導の)日本映画への厳しい批判だろう。
 「当たり屋」を自称し、『少林少女』*10『20世紀少年』といったヒット作を次々と酷評。先述のように複数回鑑賞したり原作をチェックしたりと綿密な予習・復習をした上で評論に臨んでいるから、作品の粗や欠点も理詰めで一つずつ的確に指摘してゆく。悪く言えば作品の揚げ足とりなのだが、当時、「なんでこんな映画がヒットしているんだ」と苛立っていた(けれどそれを的確に指摘できる言葉をもたなかった)人たちにとって、作劇の甘さをロジックで喝破する「当たり屋」っぷりは痛快だった。
 中でも語り草になっているのが、TBS製作の『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010年公開)を評した回だ。公開前から暗雲が立ちこめていた同作だけに、「ザ・シネマハスラー」で(酷)評する日を「Xデー」と怖れていた宇多丸。だが、題名を『スポーツマン山田』(原作アニメは『運動選手山田』)、「木村拓哉」を「ケビン・スペイシー」、「波動砲発射口」を「鈴口」など、作品に関するワードを暗号に置き換えるという離れ業で何の差し障りもなく無事に評してみせた。

 ただ、これはあくまでコーナー初期の話で、近年は「当たり屋」どころか、酷評すること自体も稀になっている。「けなし芸」と捉えられることへの抵抗もあったのだろうし、宇多丸自身も「もうそういう状況じゃない」としきりに述べている。実際、一時期に比べればかなり「良い邦画」が(目につく機会も、作品数自体も)増えているように思う。その背景には、この番組の映画評がきっかけで襟を正した映画製作者たちの存在もあるのでは……なんて気もする。
 少なくとも、筆者の知っている限りでも、タマフルをきっかけに、映画を観る頻度が増えたり、映画を見る目が養われたと公言している人は非常に多い。おそらく、「宇多丸さんの映画評をきっかけに映画監督になりました!」と若い才能が頭角を現す日もそう遠くないはずだ。
 
 こう書くとべた褒めで全肯定しているように思われそうだが、評論の内容自体は同意することもあればピンと来ないこともある。たとえば、当時リスナーの間でも賛否が分かれた『おおかみこどもの雨と雪』評とか。詳しい説明は省くが、あの評は(宇多丸と親交のある)細田守監督への遠慮ゆえに評論の軸がぶれまくっていると感じた*11
 でも、他人の評を聴いて「その解釈は違うんじゃないか」と感じること、作品に対するさまざまな意見が交わされること、そういったやり取りの叩き台みたいな意味でも、この映画評は優れていると思う。
 
 タマフル終了後も形式を変えずに「アフター6ジャンクション」内で継続しているが、なにせ10年も続いているコーナーなので過去に評論した作品数はざっと500本ほどに及ぶ計算だ。
TAMAFLE BOOK 『ザ・シネマハスラー』

TAMAFLE BOOK 『ザ・シネマハスラー』

  • 作者:宇多丸
  • 発売日: 2010/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 以前はPodcastで(映画評に限らず)番組の大半のコーナーがアーカイブとして残っていて便利だったが、TBSラジオがPodcastの配信を止めたことにより、これらは公式に聴けなくなっている。コーナー最初期の回は単行本化されており、また近年の放送回は公式サイトに書き起こしがアップされているものの、単行本未収録かつ書き起こしされていない回も非常に多い。今後、タマフル終了に伴いこれらのアーカイブがきちんと残ってゆくのか、それとも洗いざらい消されてしまうのか。これまでのTBSラジオの所業*12を振りかえると……後者の可能性が高いので心配だ。

タマフルの功績(2):世の中の見え方が変わる番組

 「聞けば、見えてくる」はTBSラジオのコーポレートメッセージだが、タマフルの魅力を述べるなら、次のひと言に尽きると思う。
 「聞けば、世の中が違って見えてくる」。
 とくにそれが顕著なのが特集コーナー「サタデーナイト・ラボ」だったと思う。特集タイトルを聞いて「何それ!?」と思うようなテーマでも、実際に聴いてみると腑に落ちることばかり――いや、腑に落ちなくて謎が深まることもけっこうあったが*13
 
 何にせよ、有名無名を問わずさまざまなゲストが登場して、その人のもつ独特の視点が紹介されるのがタマフルの面白いところ。

 サタデーナイト・ラボの特集を活字化した書籍『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル “神回”傑作選 Vol.1』にも掲載されている、西寺郷太「小沢一郎 マイケル・ジャクソン ほぼ同一人物説」などはその代表例だろう。タイトルを聞いても頭がおかしいとしか思えない企画だが、実際に聴くと「なるほど、たしかにほぼ同一人物だ!」と戦慄すること間違いなし。
 それに、(今でこそ定番企画となった)文房具特集も最初はキワモノ扱いされていたし、ライムスター(ひいては日本語ラップ、ヒップホップ)に関してもこの番組で知ってファンになった人は多いんじゃないかと思う。少なくとも筆者個人はまさにそんなふうにタマフルで得たいろいろなものが自分の血肉になっている気がする。他にも、「フード理論」とか「R&B馬鹿リリック」とか、とにかくいろいろ。
 
 それと実は、筆者もタマフルの特集に電話出演したことがある。2012年7月21日放送、特集「宇多丸夏休み特別企画! "TAMAFLE RAVE FACTORY" 略してT.R.F!!!」の回で、サタデーナイト・ラボの枠を使って宇多丸が1時間DJをするという、一見無難そうに見える企画だったのだが……詳しくは、番組の放送後記から引用しよう。

そして23時から。
番組初めての試み、「TAMAFLE RAVE FACTORY」、略して「T.R.F」!

別名「宇多丸の放送内夏休み」として、この夏、
DJの機会が少ない宇多丸が一時間ブチぬきでサマーソングMIXを披露するというもの。

合間には「テレホン・オーディエンス」としてリスナーと電話を繋ぎ
その熱狂振りをお伝えしました。
(遠くはフランスから)
(電話で出てくださった皆さん、その節は失礼しました。
そしてありがとう)
出典::TBS RADIO ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル

 この「電話で出てくださった皆さん」の1人が筆者だったわけだ。
 たしかこの日、番組冒頭のオープニングトークで宇多丸が「先週からテレホン・オーディエンスを募集しているんだけど、応募が少ない。今からでもメールしてほしい」と呼びかけていたので、ものは試しに、と軽い気持ちでメールしたように記憶している。そうしたら番組の担当者(たしか近藤夏紀ディレクター)から電話がかかってきて、出演の意思の確認と、大まかな説明を受けたのだ。そして、特集コーナーに入ってから再度電話がかかってきて、電話越しに構成作家の古川耕とかけ合いをしたのだった。「かけ合い」と言えば聞こえがいいが、筆者が954kHzの電波に乗せてしまったのは奇声、怪鳥音の類だったと記憶している。普段からタマフルは録音しているのでもちろんこの日の放送も手元のHDDに残っているのだが、怖くて一度も聞き返せていない。
 
 閑話休題。
 とにかく、特集の題材も奇抜だし、その特集に登場するゲストの面々がまた濃いのだ。そのため、タマフル出演を契機にTBSラジオ内で活躍の場を広げていった人物も1人や2人どころじゃない。そういった個性的な人々が、「タマフルグループ」を拡大していくこととなる。

タマフルの功績(3):世界に広がる「タマフルグループ」の輪

 先にも書いたとおり、番組開始時点のタマフルは出演者・スタッフの多くがラジオ業界では実績も知名度も皆無に近いメンバーばかりだった。しかし、タマフルが軌道に乗り、評判を呼ぶにつれて、TBSラジオの中で「タマフルグループ」が徐々に勢力を拡大してゆく。
 
 まずは、2011~2012年に放送された「高橋芳朗 HAPPY SAD」。既にタマフルで「本当はウットリできない海外R&B歌詞の世界」や「ア↑コガレ」といった企画で何度も登場していた音楽ライター・高橋芳朗の冠番組だ。この番組にも当時タマフルのディレクターだったバロン秋山や放送作家の古川耕が携わっていたが、ここでジェーン・スーがTBSラジオデビューを飾る。今でこそ様々なメディアで大活躍しているジェーン・スーだが、この時点ではアイドルグループ・Tomato n' Pineのプロデューサー、つまり裏方の人物だった。ところが、「HAPPY SAD」にゲスト出演するなり「中年こじれ島」などのキラーフレーズの連発で評判を呼び、タマフルにもゲスト出演し、瞬く間に知名度を上げてゆく。
 
 そして、いよいよタマフルグループの存在感を世に知らしめたのが、2011年10月に開始したナイターオフシーズン番組「ザ・トップ5」。タマフルの初代プロデューサーにして「タマフルグループ名誉会長」を自称する橋本吉史(橋P)が、事業部*14からラジオ番組の現場に復帰して早々に立ち上げた番組だ。「ランキングトークバラエティ」と銘打った「ザ・トップ5」は、かねてからTBSテレビ「ランク王国」好きを公言していた橋Pの色が強く出ているといえよう。
 「TBSの局アナとキャラの強い出演者を組ませて化学変化を起こす」という、以降に橋Pが手がける番組のほとんどに共通する方法論も、この番組で確立している。なにしろ、「ザ・トップ5」の第1シーズンでパートナーを務めたのは、コンバットRECと高野政所とジェーン・スーの3名。3名ともタマフルの特集企画ではお馴染みだが、逆にいえば、タマフルリスナー以外にはまずピンと来ないであろうメンバーだ。しかも4時間の生放送。プロのアナウンサーと組んでいるとはいえ、さすがにこの人選は無茶すぎるのでは……? と心配していたら、大きく裏切られた。もちろん良い意味で。
 シーズン1のパーソナリティを務めた局アナは安東弘樹、蓮見孝之、小林悠の3名。この3名がまさに三者三様の暴走っぷりを見せ、パートナーとの見事な化学変化を起こしてみせたのだ。とんでもなく面白かった。ナイターオフシーズンの番組なので第1シーズンは半年で終了したが、「ザ・トップ5」自体はメンバーチェンジを経て第5シーズンまで放送されることとなる。また、第1シーズンの終了と入れ替わりに、小林悠は「たまむすび」の金曜パーソナリティに抜擢*15。小林悠の降板後は同じくトップ5出身の安東弘樹が後任を務めた*16
 もうひとつ、橋Pの手がける番組の特色に「オリジナルのテーマ曲やジングル*17のクオリティの高さ」が挙げられると思う。西寺郷太による「ザ・トップ5」のテーマ曲「Welcome to the TOP5」*18を初めて聴いたときの衝撃は凄かった。

 主観的な話になってしまうが、すごく「垢抜けて」いるのだ。タマフルのジングルや、「相談は踊る」の堀込高樹によるテーマ曲、「生活は踊る」のKIRINJIによるテーマ曲と堀込泰行によるジングル*19、「興味R」のALI-KICKによるテーマ曲とジングル、どれにも共通する魅力だ。良い意味でAMラジオらしくなく、かといってFMっぽいかというとそうでもなくて、非常に洗練されたアーバン感。まずミュージシャンの人選が素晴らしいし、おそらくオーダーの仕方も巧いのだと思う。ラジオは耳で楽しむメディアだから、テーマ曲やジングルが優れているのはなによりもの魅力となる。
 
 ……こんな調子でタマフルグループの番組をひとつずつ挙げていたらきりがないので、TBSラジオにおけるタマフルの影響度を図解しよう。
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 こちらの図は、タマフル終了が発表されてすぐに作ったものだ(余談だが、なかなか発表する機会がなく、タマフル最終回の放送中にTwitterで投稿したらめちゃくちゃ反響があって驚いた)。
 とにかく、ことほど左様に、TBSラジオにおけるタマフルグループの存在感は増す一方なのだ。タマフルやその関連番組で発見された逸材が、他の番組、さらには他のメディアへ活躍の場をどんどん広げてゆく。
 その最たる例が、タマフルリスナーのラジオネーム「スーパースケベタイム」だろう。「KO-KO-U 孤高」コーナーへの投稿や、「リスナーラップジングル」企画の採用などで一部では知られていた存在だったが、後に「星野源」という名前で大ブレイク*20。現在はオールナイトニッポンのパーソナリティとしてギャラクシー賞も獲得しているスーパースケベタイムだが、それでもタマフルの最終回にはスタジオへ乱入するなど、義理堅い一面もみせている。というか、タマフルグループの一員がオールナイトニッポンのパーソナリティを務めているのだから、もはやオールナイトニッポンもタマフルグループの傘下にあると言わざるを得ないのが現状だ。

TBSラジオ最良の遺伝子を受け継ぐ番組「アフター6ジャンクション」

 さて、そんなタマフルの大団円を経て、2018年4月2日(月)から新たに始まったのが、「アフター6ジャンクション」(略称未定)だ。


 現在、最初の1週目の放送を終えた段階だが……ちょっと心配になるくらい面白い。放送開始前、宇多丸は「タマフルの濃密さでそのまま毎日3時間やるのではなく、適度に希釈する」と述べていたが、とんでもない。むしろ濃度が増している。タマフルの内容を濃くして放送時間を1.5倍にしてさらにそれを月~金曜日の5日連続で放送している。やりすぎだ。実際、水曜日のオープニングトークの段階で宇多丸が疲労を訴えていたが、そりゃそうだと思う。
 1日3時間×5日間だから、単純計算で15時間。金曜日の後半は出演していない*21とはいえ、それでも1週間に14時間弱も出演していることになる。「ライムスター宇多丸とマイゲーム・マイライフ」(毎週木曜日21:00-21:30)も加えれば約14時間半/週。よくよく考えてみたら、今のTBSラジオで最も1週間あたりの出演時間が長いパーソナリティは宇多丸なのだ。荒川強啓*22が約11時間/週で、森本毅郎*23、伊集院光*24、ジェーン・スー*25、荻上チキ*26はいずれも約10時間/週。往時の大沢悠里が22.5時間/週*27だったのは別格として、少なくとも現在のTBSラジオでは宇多丸の出演時間がダントツに長いのだ。しかもラジオ以外にも生放送のレギュラーを複数抱えていて、もちろん本業の音楽活動などもあり……と考えると、他人事ながら気が遠くなってくる。
 
 では、どうしてこんなに「アフター6ジャンクション」が面白いんだろうか?
 と、その前に。先ほど紹介したタマフルの影響を示した図について、「アフター6ジャンクション」の座組が明らかになってから修正したものをお見せしよう。
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 見ていただくとわかるように、タマフルに限らず、いろいろな番組が「アフター6ジャンクション」と何かしらの繋がりをもっている。
 「タマフル」の後継番組というだけでなく、これまでのTBSラジオで橋P(ひいてはタマフルグループ)が積みかさねてきた歴史が、すべて、「アフター6ジャンクション」に集約されているのだ。より正確に表現するなら、現在も放送中の「ジェーン・スー 生活は踊る」と「アフター6ジャンクション」の2番組に集約されている、と言うべきか。
 
 タマフル風に言うなら、「TBSラジオ最良の遺伝子を受け継ぐ番組」*28。そりゃあ面白いに決まってる。
 番組のタイムテーブルと曜日ごとのパートナーは以下のとおり。

18:00-18:10「オープニング」
18:10-18:15「国内最高峰の交通情報/天気予報」
18:15-18:30「カルチャー最新レポート」
18:30-18:55「カルチャートーク(ゲストコーナー)」
18:55-18:57「交通情報」
18:57-19:00「メッセージ紹介」
19:00-19:25「LIVE&DIRECT(スタジオライブ)」
19:25-19:30「快適生活SHOPPING&DIRECT」
19:30-19:35 「国内最高峰の交通情報/天気予報」
19:35-19:45「新概念提唱型投稿コーナー」
19:45-19:55「スポンサー提供型特注コーナー」
19:55-20:00「メッセージ紹介」
20:00-20:40「ビヨンド・ザ・カルチャー(特集)」
20:40-20:55「ザ・コンサルタント(番組意識向上型企画)」
20:55-21:00「エンディング(次回予告)」
TBSラジオがナイターをやめてまで立ち上げた大型カルチャー・キュレーション番組のタイムテーブル全貌が明らかに

月曜日:熊崎風斗
火曜日:宇垣美里
水曜日:日比麻音子
木曜日:宇内梨沙
金曜日:山本匠晃

 先に述べた、橋Pの得意技「局アナとのタッグによる化学変化」「オリジナルのテーマ曲」(ライムスターの書き下ろし曲「アフター6ジャンクション」)はもちろん揃っているし、タマフルの看板コーナー「ムービーウォッチメン」も毎週金曜日のレギュラーコーナーとして継続。DJコーナーは「LIVE&DIRECT」というスタジオライブのコーナーに発展し、1週目から豪華なラインナップ*29が登場。
 3月まで放送していた「都市型生活ラジオ 興味R」からは、メインパーソナリティの熊崎風斗や、番組後期にたびたびゲスト出演した山本匠晃が合流*30。同じく3月に終了*31した「好奇心家族」からは宇垣美里と日比麻音子が参加。宇内梨沙はラジオのレギュラーが初めてだが、さかのぼること2012年、大学時代に「ザ・トップ5 リターンズ」に数回出演しており、それをきっかけにTBSアナウンサーを志望した経歴の持ち主。まさに、橋Pの秘蔵っ子たちが揃っているのだ。第1週の段階ではまだまだ様子見といった部分が多かったように思うが、今後、アナウンサー陣と宇多丸の関係性による化学変化も楽しめることだろう。
 ワイド番組にはつきものの交通情報、天気予報、ラジオショッピングのコーナーにも一筋縄ではいかない要素が含まれているし、何より、タマフルの「サタデーナイト・ラボ」に相当するコーナーが18時台のゲストトークと20時台の特集コーナーで1日に2回も配されている。盛り沢山すぎる。ためしに、ラジオクラウドで配信されている部分*32だけを1日分聴くだけでも相当お腹いっぱいになるはずだ。
 
 そんなわけで、タマフルの11年間の功績を振りかえるつもりで書き始めた本稿だが、始まったばかりの後継番組「アフター6ジャンクション」がさっそく面白すぎて目(というか耳)が離せない――という結論になってしまった。
 タマフルを濃縮してさらにバイバインで増殖させたような、この異様なテンションのまま番組が続いてほしいと思う一方で、このまま続いたら破綻してしまうのではないか……と正直心配でもある。
 何にせよ、いま一番聞き逃せないラジオ番組であることは間違いない。タマフルを聴いてきた人も聴いてこなかった人にも、絶対にオススメだ。
www.tbsradio.jp

*1:番組最終回のオープニングで、この略称を提案したリスナーからのメールが読まれた

*2:タマフル開始前の2005年4月から2007年3月までライムスターの3人でTOKYO FM「WANTED!」の月曜パーソナリティを務めていた

*3:「BUBKA」誌で2000年から現在も連載中のアイドル時評コラム

*4:ヒップホップ雑誌「BLAST」で2000年から2004年まで連載。数度の単行本増補改訂を経て、2017年末には文庫化された

*5:2008年4月~2013年3月は「ザ・シネマハスラー」

*6:番組開始から2013年までは「申し訳ないとフロム赤坂」

*7:しまおまほを交えてのコーナー。「ご機嫌いかがですか?ミューズのぼんやり情報部」「ミューズの週刊ぼんやりニュース」など、コーナー名と主旨は数回変更

*8:タマフルの番組内や、『ブラスト公論』等で何度も触れられているエピソード

*9:出典:『ブラスト公論 増補文庫版 誰もが豪邸に住みたがってるわけじゃない』徳間文庫

*10:余談だが、『少林少女』には筆者の大学時代の友人がラクロス部の一員で出演しており、その友人から封切り前に「試写で観たけど、本家の『少林サッカー』以上に面白いよ!」と熱のこもった口調で電話を受けたことがある。ただ、あまりにも世間の評判がアレなため、どんな映画なのか自分の目で確かめるのが怖くて未だに観ていない。たぶん一生観ない気がする。

*11:そのような指摘があるのを宇多丸自身も承知しており、「そんなことはない」と番組内で否定してはいたが……

*12:「ストリーム」や「キラ★キラ」等の番組終了後すぐに過去のPodcastを削除、PodcastからTBSラジオクラウドへの切替時にもやっぱり過去のPodcastを削除、など

*13:例:ケイレイ女子特集

*14:イベント等の興行や映画製作などに携わる部署

*15:2016年3月にTBSラジオを退社し降板

*16:2018年3月末でTBSを退社して降板。後任は外山恵理

*17:TBSラジオでは「サウンドステッカー」と呼ぶことも多いが、タマフル等の番組内では主に「ジングル」の呼称が定着しているので本稿では「ジングル」で統一

*18:のちにノーナ・リーブスの楽曲「P-O-P-T-R-A-I-N」に発展

*19:この人選の時点で最高と言わざるを得ない

*20:念のため補足しておくと、スーパースケベタイムの名で投稿していた当時から既にミュージシャン・俳優の両方で大活躍していた

*21:21:00からのTOKYO MX「バラいろダンディ」出演のため19:40頃にTBSラジオを退出

*22:「デイ・キャッチ!」が2時間強×5日

*23:「スタンバイ!」が2時間×5日

*24:「とらじおと」が2.5時間×4日で、「深夜の馬鹿力」が2時間

*25:「生活は踊る」が2時間×5日

*26:「session-22」が2時間×5日

*27:「ゆうゆうワイド」が4.5時間×5日

*28:元ネタはタマフルの特集「国産シティポップス最良の遺伝子を受け継ぐ男 歌手・藤井隆の世界」

*29:SKY-HI、青い果実、スカート、トリプルファイヤー吉田靖直、どついたるねん

*30:「ザ・コンサルタント」コーナーの月曜レギュラーには「興味R」の専属コンサルタントを務めたスーパー・ササダンゴ・マシンも登場

*31:正確には番組名を変更して枠移動

*32:オープニング、カルチャートーク、新概念提唱型投稿コーナー、特集コーナー、ザ・コンサルタント