2017年9月6日に発売されたシングル『フクロウの声が聞こえる』についての話、後編です。
前編に続き、話題(問題)の「Uh, uh」等の合いの手のコツや、34分の短篇映像の補足説明、カップリング曲「シナモン(都市と家庭)」の解説などなど、シングル『フクロウの声が聞こえる』の気になる部分について細かく掘り下げていきます。
- アーティスト: 小沢健二とSEKAI NO OWARI
- 出版社/メーカー: Universal Music =music=
- 発売日: 2017/09/06
- メディア: CD
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前編はこちら。
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合いの手を練習しよう
「フクロウの声が聞こえる」で、否が応でも耳に残ってしまうのが「Uh, uh」「そう、そう」の合いの手です。
ファンの間でも賛否が分かれてますし、正直僕も最初は「えっ……」と絶句しました。
ただ、前編でも紹介した短篇映像を観ると、小沢氏が率先してノリノリで入れたようですし、ヘッドフォンで聴きながら肩を揺らして楽しげに「Uh, uh」と(セカオワの4人にも「みんなも一緒にUh, uhってやって!」と強いるような勢いで)やっている小沢氏の姿を見ていたら、これはもう開き直って楽しんだほうがよさそうだ、と思いました。
考えてみれば「プラダの靴が\ウォー!/」とか「オッケーよ!」とか「そのとーり!」とか、元々そういうキワドい合いの手が大好きな人なんですよね……。すっかり忘れてた(というか慣れてしまっていた)けど。
そんなわけで、「Uh, uh」「そう、そう」の合いの手を多くの人がマスターできるように、こんな表を作りました。
ポイントは、「Uh, uh」も「そう、そう」も裏拍のリズムであること。「ズンチャ、ズンチャ」のリズムだったら「チャ」にあたる部分ですね。
だから、「(んっ)Uh, (んっ)uh」と(声を出さずに)表拍とセットで刻んでみると合わせやすいかもしれません。
あと、間奏の「Saori!」のShoutも、ピッタリのタイミングで発声できると気持ちいいです。タイミングは、「らーら、らららー」のコーラスの直後。
短篇映像の補足
続いて、最初に紹介した短篇映像について。いろいろ補足したほうがいいかな、と思った箇所をいくつか挙げていきます。
前菜:散歩のための前菜。
小沢健二からのメール
両者が交流を深めるきっかけになった、NY滞在時のNakajin氏と小沢氏のメールのやり取り。背景の額縁の中に小沢氏からNakajin氏への返信の文面が飾られていましたが、映像では一瞬しか映らないので、以下に書き写してみました。
Re: 坂の上の公園の前
2015年2月4日 13:11
今ブルックリン Brooklyn Heights にいます。
430には髪切り終わってソーホーに向かいます。子どもと一緒にぶらぶらする予定です。
もしお時間があったら軽いドライブとか散歩しませんか?
Sent from my iPhone
ここで挙がっている地名、Brooklyn HeightsとソーホーについてWikipediaで簡単に調べてみると、
ブルックリンハイツはNY州ブルックリンの、歴史的建造物の多い地区。
Brooklyn Heights - Wikipedia
"ソーホー (SoHo) は、ニューヨーク市マンハッタン区ダウンタウンにある地域である。"
"かつては芸術家やデザイナーが多く住む町として知られていたが、近年は高感度な高級ブティックやレストラン街となっている。多くの買い物客で賑わうエリアである。"
ソーホー (ニューヨーク) - Wikipedia
だそうで。
NYの地図
5人が初めてNYで遊んだときに廻った場所。映像で一瞬だけ映っていた地図を元に、Googleマップのマイマップを作ってみました。
地図に書かれていた地名でヒットした地点にピンを打っていますが、間違っているところもあるかもしれません。NY観光の際の参考にしていただければ幸い。
別窓やGoogleマップアプリから見る場合はこちら。
DJ LOVE氏が撮影した写真、今でもInstagramで見られますね。
www.instagram.com
左から、Fukase氏、Saori氏、Nakajin氏、そして小沢氏。
こちらはFukase氏がアップしていた、レコード屋のフォトブース(日本でいうプリクラ?)で撮ったもの。
NY🇺🇸 pic.twitter.com/bBJ2xQ5kay
— Fukase(SEKAINOOWARI) (@fromsekaowa) 2015年2月6日
このレコード店はRough Trade NYC。ラフ・トレードといえばイギリスのレコード店であり、そこを発祥とするレーベル名でもあります。
80年代初頭の日本では「ラフ・トレード友の会」という非公式ファンクラブの存在が、後の東京のネオアコのシーンを作り、フリッパーズ・ギターの登場につながっていった――という知る人ぞ知る歴史は、今年7月に刊行された名著『渋谷音楽図鑑』(当ブログでの紹介記事)にて語られているエピソードです(該当部分、ここでちょっと読めます)。
こうした背景を踏まえたうえで、2015年に小沢健二がSEKAI NO OWARIをRough Trade NYCへ連れていった――と聞くと、なんともシビれます。
僕は一度もNYに行ったことがないですが、いつか行けた暁には、上のブルックリンハイツやソーホーとあわせて、この地図に載っている場所を廻ってみたいですね。
りーりー
小沢氏の長男、りーりー(凜音・小沢・コール)は2013年(6月?)生まれの現在3歳(誕生日を過ぎていれば4歳かも)。映像で動いている姿がお披露目されたのはおそらく初めてですね。
写真では、小沢氏の母・小沢牧子さんと妻・エリザベス・コールさんの共著『老いと幼なの言うことには』の表紙に登場していますし、最近の小沢氏のモノローグにもりーりー絡みのエピソードが非常に多いです。
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- 出版社/メーカー: 小澤昔ばなし研究所
- 発売日: 2015/04/30
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ちなみに昨年生まれた次男の名は天縫(あまぬ)くん。「フクロウの声が聞こえる」の歌詞「天を縫い合わす飛行機 その翼の美しさを」とつながっています。
また、「魔法的」ツアーで発表された「超越者たち」の歌詞には、「凛々しい音*1の鐘を打ち鳴らし 天を縫う誇り胸に秘め」というフレーズもありました。
天縫くん、最初は「アマちゃん」と呼ばれていたようですが、現在の愛称は……ぜひ、今回のシングルのライナーから探してみてください。
「2年間は子どもにはスクリーン(液晶画面)を見せてはいけない」
こちらの件、「2years screen」とか適当なワードで検索してみたら、いろいろ見つかりました。たとえばこれはNPR(アメリカの公共ラジオ局)のサイト。アメリカ小児科学会のガイドラインのなかで「2歳未満にスクリーンを見せるべきでない」ってものがあるんですね。
www.npr.org
日本でも同様のことが言われているようですが、軽く検索してみた感じだとうさんくさいページばかり引っかかってしまい、あまりちゃんとしたサイトが見つからず……。
SPIDER-MAN!
小沢氏とセカオワが初めて遊んだのが2015年の2月。りーりーは2013年6月頃の生まれ。
ということは、DJ LOVE氏がスパイダーマンを見せた時点で、りーりーは1歳半くらいだったわけですね。1歳半の子どもを育てながら、「フクロウの声が聞こえる」が書かれたと。
スパイダーマンといえば、ちょうどいま、映画の最新作「スパイダーマン:ホームカミング」が上映中です。最高なのでみなさん観ましょう(本題と何も関係ない)。
スープ:チョコレートのスープ。
「Saoriちゃんから爆弾」でわかること
レコーディング初日にSaori氏が落としたという「爆弾」。
映像のなかでは明言されていなかったですが、これは8月18日に公表された妊娠のことでしょう。
「現在安定期に入り、来年の年明けに出産を予定」ということは、現在は妊娠5ヶ月くらい?
すると、「フクロウ」のレコーディングは5~7月くらいに行われたものと思います。おそらくフジロックで来日した際に、「フクロウ」&「シナモン」のレコーディングもまとめておこなわれたのでしょう。
主菜:大きな魚、水音を立てる。
ヘッドフォンの種類
5人が曲の試聴に使っているお揃いのヘッドフォン。
デザインからbeats by Dr. Dreのものであることは間違いないですが、beatsのヘッドフォンでも、「beats solo」なのか「beats studio」なのか、いまいちハッキリしません。またカラーリングも「ブラック」と「グロスブラック」のどちらか微妙なところ。
Beats by Dr.Dre Beats Solo3 Bluetoothヘッドホン 密閉型/オンイヤー ブラック MP582PA/A BT SOLO3 WL BLACK 【国内正規品】
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テルミニ
DJ LOVE氏がレコーディングに使用したというTheremini(テルミニ)は、Moog社が2014年に発売した新型のテルミンです。
youtu.be
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最初、ここで小沢氏の言っていた「テルミニ、次のところで出そう!」の意味がわからなかったのですが、おそらく次のパート(デザート)で映像に出そう、ということだったのかなと。実際、次のデザートのパートではテーブルの中央にテルミニが鎮座していますね。
デザート:ベーコンといちごジャムのデザート、宇宙風。
パンク・ロックのギタリストのようなデザインワーク
シングルのジャケット、「デザインは私めです」とおっしゃっていましたが、近年の小沢氏はご自身とエリザベスさんの2人だけでデザインをすることが多いです。
自らデザインすることについて小沢氏は、今年2月にJ-WAVE「TOKIO HOT 100」出演した際、このように述べています。
小沢健二:
(略)今回のたとえば僕のシングルは自分で、
「こういう風なタイポグラフィーがあって、こうなると良い」
って自分で手を動かしてデザインを、僕はするのです。
Illustratorという(ソフトを使って)。
クリス・ペプラー:
これ(CDのデザイン)、
自分で全部手作りでやられて。
小沢:
それで、あのー、もう、
Illustratorを使う技術はほんとに、
パンク・ロックのギタリストぐらいしかないんですけれど(笑)。
それでもやっぱり、
「歌詞を書いている本人がデザインするから、
こういうタイポグラフィーになるんだなあ」
っていう部分はあって。
クリス:
はい、はい。
小沢:
それでだから、パンク・ロック的な(笑)デザインをしながら、
えーっと、でも、これがなんか、伝えている、
このデザインが伝えている部分って、
すごく大きいと思うので。
J-WAVE「TOKIO HOT 100」小沢健二ゲスト出演部分書き起こし #ozkn - 小さなドーナツを描いていた
ご本人は「パンク・ロックのギタリストぐらい」と謙遜していますが、今回のジャケットとライナーは、これまでの氏のデザインワークの中でも特に素晴らしい気がします。
スリーブから取り出してライナーを開くときのワクワク感からたまらないですし、全体的な文字の配置や配色もすごくいい。デジタル配信ではぜったいに再現できない見せ方ができていますし、(CDの中身自体はすぐにパソコンへ取り込んでしまうとしても)ずっと大事に取っておきたくなる作りです。
MVの予告編?
短篇映像の最後に流れる、本編のシーンに「ラララ」の文字とテロップが追加された映像。
これはMVの一部なのでしょうが、「流動体について」のMVはシングル発売から4ヶ月ほど遅れての公開でした。今回はいつごろ観られるのでしょうか……。
シナモン(都市と家庭)
カップリング曲「シナモン(都市と家庭)」の話もしましょう。
こちらはセカオワとのコラボではなく、小沢健二氏の単独名義。「フクロウ」同様、「魔法的」ツアーで初披露された曲です。
これまで、「魔法的」ツアー、「美術館セット」、フジロック(WHITE STAGE)で演奏されていますね。
「魔法的」ツアーで初めて聴いたときの感想がこちら。
イントロで歌詞がすべて映し出されたのですが、「シナモンの香りで僕はスーパーヒーローに変身する」とか「フッフッフ」とか、ぎょっとするフレーズが含まれていたため、客席からどよめきが起こっていました。
「シナモンダンス」(勝手に命名) が見所。動く方向は、(真ん中で腰を落として)下下(向かって左に身を寄せて)左右、(真ん中で腰を落として)下下、(向かって右に身を寄せて)左右、の繰り返しだったと思います。
この曲の間奏でメンバー紹介。下手(客席から向かって左)の白根さん(Dr)から、時計回りに。みなさんも、それぞれの変身ポーズ的なものをキメていました。メンバー紹介の最後に「お久しぶりです、小沢健二です」の挨拶で大歓声。
小沢さんがアウトロの「変!身!す、る!」のフレーズに合わせて仮面ライダー的な変身ポーズを決めていたのも印象的でした。
小沢健二「魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ」ライブレポート #ozkn - 小さなドーナツを描いていた
で、フジロックで聴いたときの感想はこちら。
イントロ、小沢氏の「シナモンの香りで 僕はスーパーヒーローに変! 身! す! る!」のフレーズから演奏スタート。
今回、踊りと変身ポーズは無し。
歌詞の内容と裏腹(?)に、ホーンのせいか大人っぽさの増したアレンジだなと感じました。シングルの録音は既に済んでいるでしょうし、シングル版準拠のアレンジかもしれません。
小沢健二 #ozkn 729 8:00 PM「魔法的」(FUJI ROCK FESTIVAL 2017 WHITE STAGE)ライブレポート~爆裂炎上、大合唱の夜 - 小さなドーナツを描いていた
実際、フジロックでのアレンジは、シングル版準拠だったと思います。ただ、シングルにはスカパラホーンズが参加されていませんね。
「フクロウ」とは真逆の、『Eclectic』や『毎日の環境学』で得たものをよりポップに昇華したようなサウンドで、めちゃくちゃにかっこいいです。「フクロウ」で高揚しまくったハートを良い感じにクールダウンさせてくれる印象。
そしてインスト版がまた良い。すごく良い。小沢氏のボーカルと一十三十一氏のコーラスが合わさると完全にポップスなのに、インストだとむしろ、ラップとかが乗せられそうなトラック
今回のシングル、表題曲⇒カップリング曲⇒表題曲(インスト)⇒カップリング曲(インスト)、っていうシンプルな構成にもかかわらず、見事に緩急がついてて素晴らしいですよね。「フクロウ」単体で何十万回でも聴けるけど、このシングルの構成なら何億回でも何兆回でも聴けそう。
「フクロウ」に対して「『みんなのうた』でやりそう」といった感想をよく目にしますが、歌詞の内容的にはむしろ「シナモン」のほうが「みんなのうた」っぽい気もします。
そういえば、先に紹介した天縫くん誕生時の小沢さんの文章では、「シナモン」の歌詞についてもかなり踏み込んだ話が書かれています。部分的に引用するのも難なので、ぜひ実際にお読みください。
ハロウィーンといえば、今回のシングルと同日に絵本『アイスクリームが溶けてしまう前に(家族のハロウィーンのための連作)』が発売となりました。タケイグッドマン氏のブログで指摘されていましたが、そういえば、これが小沢氏の初めてのメジャーからの著書でもあります。
アイスクリームが溶けてしまう前に (家族のハロウィーンのための連作) (福音館の単行本)
- 作者: 小沢健二と日米恐怖学会
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セカオワファンにオススメしたい小沢健二の曲
この文章をどれだけのセカオワファン(だけど小沢健二のことはよく知らない人)にお読みいただけるかわかりませんが、この機会にほかの小沢曲も聴いてみたい、という人にどうオススメしたらいいか、ちょっと考えてみました。
ただ、「今回の『フクロウの声が聞こえる』みたいな曲が聴きたい!」という人のリクエストにぴったり応えられる曲って、ないんですよね……「フクロウの声が聞こえる」があまりに異色すぎるので。実はこの機会にセカオワのアルバムも購入したんですが、まだ「この曲が好きな人にはこれ!」とオススメできるほど聞きこめていないのも正直なところ。
だから、ものすごく一般的なオススメの内容になってしまうんですが――。
(セカオワファンのかたに限らず)今から初めて小沢健二を聴く人には、まずはYouTubeへ公式にアップロードされているMV群をオススメしたいです*2。なんといっても一番手軽ですし、MVで観るとよりその曲の「聴きどころ」がわかるような気がします。
最新曲の「流動体について」は、90年代から現在に至るまでの小沢健二らしさが詰まっている、素晴らしい高揚感をもった曲。
小沢健二 - 「流動体について」MV
それと、90年代の作品ならやはり、2ndアルバム『LIFE』の収録曲をオススメしたい。『LIFE』は、小沢健二の代表作というより、90年代の日本の音楽を代表する名盤といっていいでしょう。先日のフジロックでも、『LIFE』収録曲の大半が演奏されました。
- アーティスト: 小沢健二,スチャダラパー,服部隆之
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 1994/08/31
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小沢健二 - 愛し愛されて生きるのさ
小沢健二 - ラブリー
小沢健二 - ぼくらが旅に出る理由(Single Edit)
それに代表作といえば、やはりこのあたりでしょうか。
小沢健二 - さよならなんて云えないよ
小沢健二 - 痛快ウキウキ通り
あと、今回のカップリング曲「シナモン(都市と家庭)」のようなサウンドが気に入った人には、1stアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』(後に『dogs』へ改題)の曲もいいかもしれません。
MVはありませんが、『犬』に収録されている代表曲「天使たちのシーン」は、昨年の弾き語りライブの際に「真夜中に流れるラジオからの『虹色の戦争』」と歌詞を変えて唄われていました。
どうして小沢健二とSEKAI NO OWARIなのか?
最後に。あらためて、このことを考えたいと思います。
「『フクロウの声が聞こえる』を書いていた頃に、ちょうどニューヨークで小沢氏とセカオワの交流があって、その縁で共作することになった」というエピソード自体は多くのニュースで書かれていますし、短篇映像で本人たちも述べているところ。
ただ、ここで語られたこと以外にも理由はあると思います。
1ヶ月前、フジロックのライブレポートで僕はこう書きました。
“今年2017年の小沢健二は、「アウェーへ果敢に飛びこんでいる」”。そして、“アウェーへ果敢に飛びこんだ結果、(おそらくご本人が想像した以上に)多くの人たちから諸手を挙げて歓迎されている。”と。
「フクロウの声が聞こえる」を引っさげて、アウェーへの挑戦――ご本人の言葉を借りるなら“日本の社会の渦の真ん中らへんに”身を置くこと――をするにあたって、SEKAI NO OWARIの力を借りたかった。それはまず間違いないと思うのです。
「魔法的」ツアーへ行った多くのファンに喝采をもって迎えられた「フクロウの声が聞こえる」ですが、“社会の渦の真ん中”へ届けるには、もうひとつ魔法が欲しかった。それがセカオワとのコラボだったんだと思います。
この曲がよく「ブギーバック以来24年ぶりのコラボ」と言われますが、「フクロウ」が「ブギーバック」と決定的に違うのは、「フクロウ」は作詞も作曲も小沢氏の単独作*3で、セカオワとコラボしているのはあくまで編曲と歌唱・演奏のみである点です。つまり、ある意味では(半)セルフカバーといってもいい。
自作がカバーされることについて、小沢氏は6年前に「矢」という文章を発表したことがありました。未読のかたはこの機会にぜひ全文をお読みいただきたいですが、ここでは、歌を「矢」にたとえて“僕には全く見えない標的に向かって、でも自信を持って、力と喜びをこめて、投げられている。”と表現しています。
小沢氏が公の場にほとんど姿を現わさない間も、多くのミュージシャンが小沢氏の楽曲をカバーしてきました。「ブギーバック」だったり*4、「ぼく旅」だったり、いろいろな曲が。
そういったカバーの数々で自分が思いもよらなかった方向へ「矢」が飛んでいくのを目の当たりにしたからこそ、今回のフクロウでは、自分と違う方向へ無数の矢を放っているセカオワと組んだのではないか。そう思うのです。
SEKAI NO OWARIの名前が持つネームバリューが云々といったマーケティング的な目的というよりも、もっと中身の部分で、セカオワがもつポップさや今の若い人たちに響く波及力みたいなものが欲しかったんじゃないかな、って印象です*5。
今まで届かなかったところまで、矢を飛ばしたい。
だからこそ、服部隆之氏率いるフルオーケストラを動員してあんなにまで過剰なアレンジをしているのでしょうし、アレンジはド派手でもボリューム的には歌詞を削ってまでして5分きっかり*6に収めている。元は6,7分くらいあったのに。
変な言い方かもしれませんが、今回のバージョンは「普及版」といった印象を受けます。いや、普及版って呼ぶにはあまりに凝りすぎているし、パッと聴いた感じではポップでも、(良い意味で)変なことをたくさんやっているのだけど。なんというか、アニメやドラマのテレビシリーズを再編集・新規シーンの追加をして1本の劇場版にまとめた感じ? ……ちょっと違うか。
そうした狙いが見事はまったのか、9月6日のオリコンデイリーチャートでは3位。
渋谷マルイや電車内での広告、テレビの芸能ニュース等での露出はあれど、基本的にはネットでの話題性のみのプロモーションでこれだけヒットしているのは、やはり凄いことだと思います。これからMステの出演でより多くの人の目に触れるでしょうし、ウィークリーやもっと長いスパン*7で見れば、もっと広く広く聴かれるはずです。
『流動体について』と『フクロウの声が聞こえる』の2作を立て続けに“社会の渦の真ん中”へ届けたいま、次はどんな矢を、どんな目標に向かって放つのか。
次はやっぱり(フジロックで猛プッシュしていた)「飛行する君と僕のために」のシングルかな? とか、やっぱりそろそろアルバムが欲しいよね、とか、いやいやライブも行きたいよね、とかいろいろ期待を膨らませつつ、まずは今夜のMステを思いきり楽しんでから、何十万回も『フクロウの声が聞こえる』を聴きたいと思います。
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