「フリッパーズ・ギターは太陽だった」――『 #渋谷音楽図鑑 』発売記念トークショー(2017年7月2日/HMV&BOOKS TOKYO)実況まとめ+補足

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 2017年7月4日に発売された、『渋谷音楽図鑑』(太田出版)。その発売記念トークショー&サイン会が、7月2日、渋谷のHMV&BOOKS TOKYOにておこなわれました。
 本稿はそのトークショーをTwitterで実況したときのログのまとめ(+補足)です。

渋谷音楽図鑑

渋谷音楽図鑑

『渋谷音楽図鑑』の紹介&感想はこちら

kagariharuki.hatenablog.com

2017年6月25日のトークイベントのまとめはこちら

 僕はその1週間前の6月25日に渋谷・東京カルチャーカルチャーでおこなわれた同書のトークイベントにも行っていますが、その内容は既にこちらでまとめられています。あわせてご参照いただければ幸い。
togetter.com

『渋谷音楽図鑑』発売記念トークショー(2017年7月2日/HMV&BOOKS TOKYO)実況まとめ+補足

 以下、あくまでリアルタイムでの実況&記憶による補足のため、いろいろと間違いはあると思います。その点だけどうかご了承ください。



 開演前に、太田出版 林さん(本書の担当編集者)ご挨拶。
「先行販売だけど、どんどん感想を書いてください」
とのこと。

HMVから始まった渋谷系

(ここからトークショーの内容になります)
 今日は、『渋谷音楽図鑑』ができあがったので、本ができた裏話と、(会場の)HMV & BOOKS TOKYOらしく、レコードショップの話を。
 レコードショップは駅前などにあるものだったが、そこに外資系がきた。
 今はMEGAドン・キホーテ渋谷本店がある裏あたりに、90年11月(フリッパーズ・ギター『恋とマシンガン』発売の半年後)にHMV渋谷店ができた。そこに太田さん*1という人がいた。
 
牧村:
先週(2017年6月27日)、コーネリアスのシークレットライブがあって、終わったあとに太田さんがいた。
これまで2人で写真を撮ったことがないからと、一緒に写真を撮っていたところ、後ろから2人がきた。
1人はカジヒデキくん、もう1人が櫻木景*2



 
柴:
僕自身は76年生まれで大学が京都なので、渋谷の街にどっぷりではなかったけど、当時ZESTでカジさんが働いてて、『C86』というコンピレーションアルバムがとても重要だった。NMEが作ったコンピ。86年のカセットという意味。カジさんは洋楽をカセットから入れていた。
 
『別冊ele-king コーネリアスのすべて』で小山田さんも「C86聴いてたね」と言っていた。
けど、この『渋谷音楽図鑑』には『C86』の話を入れそびれた。入れてもよかったと思う。
別冊ele-king コーネリアスのすべて (ele-king books)

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  • 作者: 天井潤之介,磯部涼,宇野維正,小川充,小野島大,河村祐介,北沢夏音,デンシノオト,野田努,畠中実,ロバーツマーティン,松村正人,三田格,矢野利裕
  • 出版社/メーカー: Pヴァイン
  • 発売日: 2017/06/17
  • メディア: 単行本
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カジさんが『遅れてきた渋谷系』とRのつく雑誌*3で書かれていた覚えがあるけど、むしろカジさんは一番最初から渋谷系にいた。
逆に渋谷系のしんがりは『デトロイト・メタル・シティ』*4だと思う。
渋谷系の最初としんがり、その両方にカジくんがかかわっている。
 
牧村:
『デトロイト・メタル・シティ』って、ほぼカジくんのストーリーですよ。
 
柴:
そうですね! カジさんにゴスの才能があったら、『デトロイト・メタル・シティ』になっていた。

ブリッジ以前(80年代半ば)のカジくんのファッションhttps://t.co/cg8v97bhDZはパンク、それもゴスだった。この、ゴスと渋谷系のギャップがまさに『デトロイト・メタル・シティ』の主人公と重なる、ということ。
ちなみに『デトロイト・メタル・シティ』は渋谷系が大好きな人じゃないと入れないような小ネタがあちこちに散りばめられていたので、連載当時から渋谷系界隈でけっこう話題になっていた覚えがあります。1コマだけ出てくる映画のタイトルが「ブルーの構図のブルース」*5だったりとか。

デトロイト・メタル・シティvsシブヤ・シティ?渋谷系コンピレーション

デトロイト・メタル・シティvsシブヤ・シティ?渋谷系コンピレーション

 
BGM:The Style Council『My Ever Changing Moods』

THE STYLE COUNCIL - MY EVER CHANGING MOODS
 
牧村:
こういう機会だからいうけど、通りの向こう側(渋谷タワレコ)の5階に長いつきあいの人がいるんですよ(パイド・パイパー・ハウス店長の長門芳郎氏)。だからHMVは、僕をやとったほうがいい!*6
(会場笑)
 

ちなみにこのトークショーのあとに(HMVから通りを渡って)タワレコへ向かったところ、パイド・パイパー・ハウスへ『渋谷音楽図鑑』を届けに向かう牧村氏と遭遇しました。そして↓が牧村氏から『渋谷音楽図鑑』を受け取った長門氏のツイート。

フリッパーズ・ギターは太陽だった

牧村:
この本の第五章『渋谷系へ』が、柴さんも藤井さんも「一番大事だ」という。
僕はフリッパーズ・ギターと渋谷系を混ぜて話すのに参加したくなかった。
フリッパーズ・ギターは太陽だったと思ってるんです。
それがあるとき、パンと消えてしまった。ブラックホールですね。
 
2000年代にフリッパーズ・ギターのアルバムを再発*7した理由は、1990年前後はCDのマスタリング技術が非常に低かったこと。
再発にあたってブログを書いた*8。最初で最後の宣伝だから、自分の持ってる写真も全部出した。するとブログの人気が出すぎてしまった。小山田くんや小沢くんから石が飛ぶかもしれない。
再発盤の発売にあたりブログを閉じようとしたら、200人くらいの人から「ブログを閉めないで」といわれた。そこで、1ヶ月だけ閉鎖を延ばして、その間に保存したい人は保存できるようにした。
 
フリッパーズ解散が91年、渋谷系といわれるようになったのが93年。
コーネリアスと小沢健二の活動もあるけど、いまだにファンの人たちに欠落感がある。
ブラックホールに吸い込まれるように。
本を書いているうちに、ファンの人たちの気持ちがわかるようになった。
 

フリッパーズ・ギターは太陽だったから、いなくなってしまったらブラックホールのような欠落感があった……という牧村さんの説。今日初めて公にされたそうだけど、後追いのファンにもすごくしっくり来ました。
牧村さんの考えでは、フリッパーズの本来のプロデューサーは(元メンバーの)井上さんで、自分はそれを継いでレコードプロデュースをしただけ。
先週のシークレットライブで井上さんが「だって、あの時の小山田くんと小沢くんは輝いてたでしょう!」と言っていた。

 
牧村:
ロリポップ・ソニックというフリッパーズの前身がいきなり結成されたのではなく、その10年前からの流れを継いでくれたのが小山田くんと小沢くんだった。
 
藤井:
……牧村さん、なんでこの話を本に書かなかったんですか!
(会場爆笑)
 
BGM:Flipper's Guitar『恋とマシンガン』

YOUNG, ALIVE, IN LOVE - 恋とマシンガン -(M.V.) / FLIPPER'S GUITAR

CAMERA TALK

CAMERA TALK

 
牧村:
あのね、最初「フリッパーズ・ドラム」(ってバンド名)だったんだって!
ドラムの荒川くんが名付けたから。
 
藤井:
それも(本に)書けばよかったのに!
(会場笑)

楽曲解析

本書の第六章『楽曲解析』について。
80年代のパンクムーブメントがあって、フリッパーズにつながっていった。
だから『恋とマシンガン』もスイングジャズの引用なのにパンク。

 
柴:
この本は譜面を挟んでいるから、楽理とかわからなくても譜面をみれば、
「この曲こんなにコード多いんだ!」とわかる。
 
牧村:
譜面を読める、読めない、じゃない。
 

この譜面を挟むのは牧村さんのアイデア。
音が上がる下がるなど、視覚的な話。

 
牧村:
(楽器解析の)選曲は藤井さんに任せました。
この楽譜があると、音楽というものがどういう共通したもの、
「どの時代のどういうものを受け継いだのか」が見えてくる。
 
藤井:
「何を受け継がなかったか」も。

「渋谷系」ではなく「渋谷系へ」

牧村:
第五章の題名は最初『渋谷系』だった。
でも『渋谷系へ』になった。
ここには海を越える争いがあった
 

牧村さんが「渋谷系」にノーを出し、Wi-Fiの入らない環境でバカンス中の柴さんが悩んだ末「渋谷系へ」を提案したところ、既に藤井さんも「渋谷系へ」のタイトルを提案していた。

 
牧村:
10~20人程度の「ラフ・トレード友の会」のなかに2人の青学の学生がいた。そこからネオアコが広がっていた*9
 

この流れを無視していきなり「渋谷系」というのは違う、と牧村さんが強調。
「渋谷系へ」の「へ」が入ることで、「ラフ・トレード友の会」からの流れをすべて入れられた。

 
柴:
ラフトレードは元々レコード店。そこで始まったものがまわりまわって(HMV渋谷店から広がった「渋谷系」に)つながっている。
 
牧村:
だからHMVは僕を雇って……。
 
藤井:
また雇用の話か!
(会場笑)
 
藤井:
フリッパーズが全然売れなくて、最初に反応があったのも……。
 
牧村:
六本木WAVEの洋楽売り場。信藤さん――信藤さんこそ渋谷系そのものだけど*10――のジャケットデザインで持って行ったら、洋楽売り場が反応してくれた。
フリッパーズの売上は最初3000枚だったんです。
それが、六本木WAVEなどで(異様に)売れていた。売れている店舗を調べたら、山手線の内側だけで売れていた。そんな売れ方をするものはなくて、我々は大きなヒントを得た。
六本木WAVEは短い期間しか存在しなかったが、重要な店だった。
ここ(HMV&BOOKS TOKYO)のようにレコードも本も扱っていた。
 
柴:
六本木WAVEでバイヤーをしていた人は、その後Amazon.co.jpの立ち上げをして、いまは中目黒でカセット店をやっている。
 
J-POPという言葉の意味も、最初はまったく違った。「区別」のための言葉だった。
 
藤井:
最初、開局当時のJ-WAVEは洋楽しかかけなかった。そこでもかけられる邦楽につけた言葉が「J-POP」だった。
 
牧村:
「渋谷系」もいまは肯定的に使われているけど、最初は、差別的な、区別の言葉だった。
「ニューミュージック」も最初はそうだった。1970年代、髪を伸ばして道玄坂を歩いていると後ろからつかみかかられて「お前、女かよ」と言われた。
「ニューミュージック」の由来は、あがた森魚の『赤色エレジー』。
キングレコードの歌謡曲班がこの曲を売り出すためにつけた言葉が「新歌謡曲」(と書いてルビが「ニューミュージック」)だった。
 
BGM:Cornelius『あなたがいるなら』

Cornelius - 『あなたがいるなら』"If You're Here"

Mellow Waves

Mellow Waves

 
牧村:
今回の本は地面の下を流れる川の話をしているので、それを知らしめたかった。
 
柴:
過去の話ではなく、今の話をしたかった。2017年の雌伏の人たちがどこかにいるだろう。渋谷のどこかに地下水脈が流れているだろう。
 
牧村:
この本をつくったのは、こういう話を若い人たちに伝えたいから。
楽曲解析を藤井さんにしてもらったのは、「楽譜分析による音楽論」をおこしてもらいたいと思うからです。
柴さんには、(この本で)2000年まで(文章に)は起こしたので、その先を現在進行形で起こしつづけてほしい。
 
(実況は以上です)

サイン会にて


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 著者のお三方によるサイン。家宝にします。

渋谷音楽図鑑

渋谷音楽図鑑

*1:当時、HMV渋谷店でバイヤーを務めていた太田浩氏。のちにHMVからタワーレコードへ移る。

*2:ポリスターにて、牧村氏とともにフリッパーズ・ギターやトラットリアレーベルを担当。

*3:ROCKIN'ON JAPANのことかもしれませんね。

*4:若杉公徳の漫画作品(2005~2010年にヤングアニマル誌で連載)。2008年に松山ケンイチ主演で公開された映画版ではカジヒデキが挿入歌を書き下ろしている。

*5:小沢健二のアルバム『球体の奏でる音楽』の1曲目

*6:タワレコに対抗して、HMVも牧村氏が店長を務めるストアを設置するべきだ! というネタ。

*7:2006年にフリッパーズ・ギターの1stと2ndのリマスター盤が発売。紙ジャケ仕様で、オリジナル盤には収録されていない曲もボーナストラックで収録。

*8:この牧村氏のブログは当時かなり話題になったらしいですが……僕はなぜか(当時フリッパーズを聴きまくっていたはずなのに)読んだ覚えがないのです。今になってめちゃくちゃ後悔しています。

*9:詳しくは『渋谷音楽図鑑』第五章を参照

*10:信藤三雄氏。フリッパーズ・ギターやピチカート・ファイヴ、コーネリアスなどのデザインワークを手がける。「渋谷系」の視覚的なイメージの大半は信藤氏率いるコンテムポラリー・プロダクションによるもの、と言っても過言ではないでしょう。