5000円で味わえる、最高の一夜。「スパイスカフェ」初体験記

 押上の「スパイスカフェ」へ、初めて行ってきました。
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spicecafe.jp
 
 カレー好きの間では以前から大変な評判だった「スパイスカフェ」ですが、予約がほぼ必須と聞いていただけに、なかなか足を向ける機会がなかったのです。
 そんな折、ちょうど押上方面へ行かざるを得ない極めて重要な用件が発生。調べてみたら、ちょうどスパイスカフェも数ヶ月にわたる休業を経て、10月から新装開店する! とのことで、すかさず予約をとって向かいました。
 
 で。行ってみたら、これがもう、大変に素晴らしい体験でした。
(10月のコースメニューを事細かに紹介しているので、10月中に訪問予定の方はネタバレにご注意ください)
 
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 古民家風、というか古民家そのものを改装した店舗。商店街(?)から一本、人けのない路地へ入ったところにあるので、夜に訪れると幻想的な佇まいです。
 
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 リニューアル後のスパイスカフェのメニューはとてもシンプルで、完全予約制の5000円のディナーコースのみ(リニューアル前はもっといろいろメニューがあったらしいので、そちらを選べないのは少々残念ではありますが……)。
 コースの内容は月替わりで、スパイスを使った7種類の料理で構成されています。
 
 それと、料理に合わせたマリアージュが楽しめる5種類の飲み物のコースを、ノンアルコールとアルコールの2種類(10月は中国茶が3200円、ワインが4000円)から選んで追加できます。
 
 何よりもまず、飲み食いするよりも前に感動したのが、このコースメニューの仕掛けですよ。
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 飲み物のメニューが印刷されているのは、トレーシングペーパーを厚手にしたような、向こう側が透けて見える紙です。
 これを、料理のコースメニューに重ねてみると……。
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 このように、どの料理にどの飲み物を合わせるのか、一目瞭然なのです。すげえ!
 
 シンプルながら素晴らしいアイデアです。
 正直、お店に向かう道すがら「ワインを付けると9000円かー、さすがに高いかなー」と躊躇していたのですが、この仕掛けに感動するあまり、即断即決でワインペアリングも頼んでしまいました。
 
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 すると、店員さんが飲み物のメニューと料理のメニューをシールで貼りつけてくれます。
 手元に置いて、これから出てくる料理とワインの名前を見ながらわくわくするわけです。
 
 料理名の表記はシンプルで、想像がふくらみます。待っている間、まわりのテーブルや厨房をちらちら見回して偵察(落ち着きがない)。
 

  • 季節の野菜の盛り合わせ

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 ひと皿目は、「季節の野菜の盛り合わせ」(金糸瓜・小松菜・キノコ・アンディーブ・ルッコラ)。
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 横長のお皿に、5種類の野菜料理が少しずつ盛り付けられています。
 メニューによれば、スパイスカフェの料理は、1食材につき1種類のスパイスが基本。それぞれの季節の野菜の味を引き立てるようなスパイスの合わせ方でした。
 合わせて出てきたのは「ビーツの薄焼きパン」。
 パンは、サイドテーブルに置かれた、分厚いまな板のような台に置かれます。
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 最初のワインは「ポトロン・ミネ/パリトゥルイヤス ブラン<白>/ルーション(仏)/グルナッシュ・ブラン ミュスカ」(これだけ写真撮り忘れてますね)。
 

  • 畑の土と野菜のサラダ

 次の料理は、「畑の土と野菜のサラダ」と「ほうれん草の揚げパン」。
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 たしかに畑です。土です。
 畑そのもののビジュアルに驚きますが、この土の部分も含めて全部食べられるとのこと。
 おそるおそる土を食べてみると……土、うまい! おからみたいな食感です。というか、おからを使っているのかな?
 満面の笑みを浮かべて「土うまい、土うまぁい……」と土まみれの野菜をひたすら口に運びつづける姿は狐や狸に化かされた昔ばなしの登場人物にしか見えませんが、実際うまいのだから仕方ない。
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 ワインは「サンラッザロ/マルケ ロザート エリゼッタ<ロゼ>/マルケ(伊)/グルナッシュ モンテブルチアーノ」。琥珀色が綺麗なロゼです。サラダと組み合わせるとは驚きですが、たしかに相性が良いです。
 

  • 秋刀魚とレタス

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 これは「秋刀魚とレタス」のはずですが……泡です。泡とレタスしか見えない。秋刀魚はどこに?
 一般的な焼き魚の姿で出てくるかと思いきや、想像と全く異なるビジュアルに困惑です。
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 おそるおそるレタスにナイフを入れてみると、秋刀魚のペーストがでてきました。
 文章でも写真でも味のイメージがまったく伝わらないと思いますが、これがとても美味しい。旬の秋刀魚の味をぎゅっと凝縮したペーストと、クミンを合わせたレタスの組み合わせが絶妙です。この秋刀魚のペーストだけでもう、お酒もご飯も無限に摂取できそうです。
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 実際、こちらの「発酵薄焼きパン」は瞬く間になくなりました。
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 そしてこの謎の泡。店員さんによると「すだちの果汁を特殊な製法で泡にしたもの」だそうで。どんな製法なのか謎が深まりつつも、ためしに泡だけ口に運んでみるとたしかにすだちの風味がする。見た目はまるで違いますが、焼いた秋刀魚にすだちを絞るのと同じ組み合わせになります。
 土と泡を立て続けに食べていると山ごもり中の仙人にでもなったようですが、実際は同時進行でワインもがぶがぶ飲んでいるので仙人度は低めですね。仙人度?
 

  • 釜あげしらすのビリヤニ

 次はお待ちかねのビリヤニ……ですが、その前に付け合わせの「きのこピクルス」が出てきました。これがまたほどよい酸味ときのこの食感が素晴らしくて、これだけでもう、お酒もご飯も無限に摂取できそうです(本日2度目)。というかビリヤニの登場が待ちきれず、ピクルスをめちゃくちゃ食ってしまいました。
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 3種類目のワイン「グレサック/ルー・グレサック<赤>/ラングドック(仏)/シラー」も進む進む。
 
 そしていよいよ「釜あげしらすのビリヤニ」です。
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 鉄の釜で炊かれたビリヤニが、釜ごとテーブルに置かれます。
 写真だと真っ白でわかりにくいですが、しらすがたーっぷり。お米はもちろん細長のバスマティ・ライス。おこげも合わせていただけます。
 ビリヤニなのでホールスパイスもごろごろと入っていますが、スパイスの自己主張は控えめで、とても優しい味です。きのこピクルスを合間に食べると良いアクセントになりますね。ちょうど、とびきり美味しい白米のご飯と漬け物を合わせて食べるような感覚というか。和食ではないけど、日本人の味覚、食習慣にしっくりくる組み合わせというか。
 

  • 鰹カレーときのこカレー

 ビリヤニの美味さのあまり言葉を失って黙々と食べていると、そこに2種類のカレーが登場。
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 「鰹カレー」(手前)と「きのこカレー」(奥)。そしてワインは「マリア・ボルトロッティ/ボスコ・ピニョレット<白>/エミリア・ロマーニャ(伊)/ピニョレット」。
 カレーとビリヤニの量のバランスが取りづらいかな、と思っていたら、お店のかたから「ご飯をお出ししましょうか?」とのありがたいお申し出。日本米ですが、こちらもすごく美味しい。カレーに合わせて固めに炊かれていたかな。
 
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 いやあ、このカレーがもう、絶品で絶品で……。
 しかも面白いことに、それぞれ味の方向性が大きく異なるんですね。「鰹カレー」は、和風のだしが効いていて、日本米との相性が最高。一方、「きのこカレー」は、インド風というかアジア風で、パラパラとした食感のバスマティ・ライスのビリヤニとよく合います。
 とびきり美味しい2種類のカレーを、それぞれにピッタリなご飯と合わせて召し上がれる。こんなに幸せなことはないですね。この組みあわせだけで3,000円くらいは軽く払えます。
 

  • 豆花

 残り2皿は、なんとデザート2連発。
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 最初のお口直しで出されたのは、「野菜玉とスパイス蜜」を添えた「豆花」。台湾のデザートですね。
 見た目は杏仁豆腐のようですが、もうちょっとあっさりしています。カレーを食べた後の舌でも、豆乳の風味がはっきりわかりますね。
 八角の香りが立ったスパイス蜜を合わせても甘さはほどほどで、するっといただけます。
 

  • モンブラン

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 〆の〆、最後のデザートは「モンブラン」。アイスと、無花果のコンポートが添えられています。「フランツ・シュトロマイヤー/ロゼ・ゼクト<ロゼ・発砲>/シュタイヤーマルク(墺)/ブラウワー・ヴィルトバッハー」とともに。
 いやあ、このモンブランがまた……(語彙力を失うほどの美味さ)。スパイスカフェは以前からデザートの評判も良かったそうですが、なるほどたしかに。大変な手間をかけて作られているのだろう、と容易に想像できる、栗の風味をぎゅっと閉じ込めたモンブランです。
 
 
 と、まあなんとも素晴らしいコースでした。
 
 一品一品が、どう食べても間違いなく美味しい旬の素材を、素人目にもわかるほど丁寧に手間暇かけて調理されているんですね。なので、これは5000円でも全っ然安いです。
 あとワインペアリングを付けると計9000円になるのでちょっと思い切りが必要ではありましたが、料理に合わせて選ばれた5種類が飲めて、しかもおかわりをいただけることもあるわけで(あんまりがばがばと飲むのも憚られたので、2,3回ほどしかおかわりはいただかなかったですが……)、一杯あたり600~800円くらいと考えれば、全然高くないですね。
 ただ、ある程度お酒に強くないとこのワインのコースは頼みづらいので、お茶とお酒が半々くらいで出てくるコースがあってもいいのかな、とも思いました。前半はワインと料理を楽しんで、後半のご飯やカレー、デザートはお茶とともに、みたいな。
 あと、リニューアルしたばかりで仕方ないのでしょうが、店員さんの料理の説明が若干不慣れな感じでした。隣のテーブルでは事細かに料理の説明をしていたのに、こっちのテーブルでは料理の名前しか教えてもらえなかった……ってこともあったので。まあ、これは今後どんどんこなれていくことでしょう。
 
 とにかく、こんな細かい点を気にするのも野暮なくらい、とにかく料理が素晴らしくて素晴らしくて、大満足の一夜でした。
 ラストオーダー時間ぎりぎりの予約だったので、遅くまでの滞在になってしまいお店の迷惑なんじゃないかと恐縮しつつも、最後の一皿まで残さず美味しくとことん味わいつくしました。
 毎月の訪問はなかなか難しいけども、せめて年に4回くらい、季節ごとの旬を活かしたコースを味わいたいですね。ほんとうに素敵なお店です。みなさまもぜひ。