小沢健二「流動体について」について #ozkn

はじめに

※出演情報に関しては、以下の記事に独立させました。
新情報が入るたびに随時更新しています。
kagariharuki.hatenablog.com
 
 2月20日(月)、小沢健二の19年ぶりのシングル*1「流動体について c/w 神秘的」のリリースが、音楽ナタリーの企画「小沢健二AMA 私の並行世界」にて、小沢健二本人から明かされました。
 発売日は2月22日(水)。いわゆる店着日は明日2月21日。

流動体について

流動体について

 

小沢健二 - 流動体について c/w 神秘的 ティーザー広告
Kenji Ozawa 小沢健二 Official Site ひふみよ
 
 この曲が一人でも多くの人に届いてほしいと、切に願うばかりです。

 この文章を読む人の大多数は、既にファンで、「魔法的」にも行き、「小沢健二AMA」もピッタリ張りついて読んでて、今回のシングルも迷わず買って聴く、といった強者揃いだろうと思います。
 だけど、もし何かの拍子にこのページへ辿りついたあなたが、ファンではなかったり、「魔法的」に行っていなかったり、今回のシングルを買おうかどうか迷っている、そんな方だったら。そういう方にも、この文章を読んでいただけたら嬉しいし、何より、「流動体について」を一度でいいから聴いていただきたい。
 あとで詳しく書きますが、「流動体について」は、小沢健二の曲をこれまで聴いたことのない人が聴いても一発で圧倒される、それだけの力をもった曲だと思っています。
 
 そんなわけで、まずは昨年の「魔法的」ツアーで聴いたときの記憶をもとに曲紹介をしたいと思います。

(ライブの記憶をもとに)「流動体について」について

 
 さて。今回のシングルに収録される「流動体について」と「神秘的」はいずれも、ライブで既にお披露目されている曲です。
 発表は「神秘的」のほうが先で、2012年の「東京の街が奏でる」や2016年の「魔法的」ツアーの番外編「言葉は都市を変えてゆく 小沢健二 美術館セット×2」等*2で演奏されました。
 一方、表題曲「流動体について」は、昨年の「魔法的」ツアーで初披露。
 「魔法的」は発表の段階で「新しい曲をたくさん、やります。」と明言されていたライブツアーで、実際、ファンから「早く音源をリリースしてほしい」の大合唱になるほど素晴らしい曲揃いでした。ライブ音源(または映像)や、全曲録り下ろしのアルバムを期待&予想していた人が大多数だったと思いますが……まさかのシングルとなりました。
 ただ、たしかに「流動体」は新曲のなかでもっともシングル向きの曲だと思います*3
 
 では、「流動体について」はどんな曲なのか。僕の書いた「魔法的」のライブレポートから引用します。

10. 流動体について(新曲)
 すごく、すっごく格好良い曲です。疾走感。歌詞がまた良かった……。この曲と次の「超越者たち」は本当に格好良くて、一目ぼれならぬ一耳ぼれ(?)をしました。「○○の中で○○○○を○○○○くらい」「○○○い○○○○の○が○○○○○かける」の言葉にシビれる。
 美術館セットの題名「言葉は都市を変えてゆく」も、この曲の歌詞からきているんですね。
 後半、歌に合わせて歌詞が映し出されていたので、できるだけ(声に出さず口パクで)合唱しながら、ぜひ。
 
 しかし、直前の曲で「誰かにとって特別だった君をマーク外す飛び込みで僕はサッと奪い去る」と歌った直後に「○○○○○も○○○○○に?」(※うろ覚え)ってフレーズを持ってくるのは、ゾクッとしますね。
小沢健二「魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ」ライブレポート #ozkn - 小さなドーナツを描いていた
(※引用注:歌詞は伏字にしました)

13. 流動体について
 新曲の中でも特にかっこいい「流動体について」。アコースティックでもそのかっこよさは健在。むしろ直接的に突き刺さってきます。最高です。
 美術館セットのタイトル「言葉は都市を変えてゆく」は、この曲の歌詞から来ています。ラストを飾るにはこの上ない。
「言葉は都市を変えてゆく 小沢健二 美術館セット×2」金沢21世紀美術館2016.6.21ライブレポート #ozkn - 小さなドーナツを描いていた

 いずれもライブを観たその夜のうちに書いた文章なので、我ながらなかなかのテンションの高さですね。
 上に書いたとおり、疾走感あふれる、猛烈に格好良い曲です。変な喩えかもしれないけど、知らない人が聴いたらイキのいい若手のバンドの新曲と勘違いしそうなほど。
 
 アレンジにも注目です。「魔法的」はタイトルに「Gターr ベasス Dラms キーeyズ」とあるように、比較的少人数のバンド編成によるツアーでした。バンドサウンドとして非の打ち所のない、最高に熱い編曲でしたが、これがスタジオレコーディングでどうなるのか。
 「ストリングスが入る」との話なので、けっこうガラッと変わるのかな? 個人的には、ライブのアレンジそのままでレコーディングされていてもまったく文句なしなくらいなんですが、どうなんでしょうか。
 
 そして歌詞。小沢健二の歌詞が凄い、というのはもうさんざん語られていることですが、この曲もやはり凄い。
 ただ、歌詞についてあれこれ書くのも野暮ったい気もしますし、まだ聴いたことのない人が多い段階で「この曲はこういうテーマで唄っていて~」と喧伝しても、変なバイアスをかけてしまいそうです。
 なので、とにかく聴いてください。ひふみよに歌詞がフルで載ってますが、まあまずは聴いてみましょうよ。
 曲の良さでスッと耳に入ってきて、聴いているうちに自然と歌詞の意味も染み込んでくる――というのが(僕の中での)良質な楽曲の定義だったりするのですが、まさにそういう曲です。
 ただひとつアドバイスするなら、CDを買ったその足で(もしくはMステを観るその前に)、ぜひカルピスをお買い求めください。飲みながら聴きましょう。

カルピス <希釈用> Lパック 1.0L

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(ライブの記憶をもとに)「神秘的」について

 一方、カップリングの「神秘的」は、エモーショナルな「流動体」とは対照的に、静かな部屋で落ち着いて聴きたくなる曲です。
 2012年の「東京の街が奏でる」での初披露の際はどういった編成だったか、正直記憶があいまいですが……昨年の「美術館セット」ではギター1本での弾き語りでした。
 昨年2016年6月16日に金沢21世紀美術館で聴いたとき、拙稿ではこう書いています。

3. 神秘的
 「東京の街が奏でる」(と岡崎京子展)でしか演奏されていない曲なので、今回初めて聴いた人もいるかもしれません。僕も4年ぶりに聴いたので「知らない曲!?」と一瞬戸惑いました。「東京の街が奏でる」のときもアコースティックギターの弾き語り(ストリングスの伴奏とかはあったかも?)だった覚えがあります。
「言葉は都市を変えてゆく 小沢健二 美術館セット×2」金沢21世紀美術館2016.6.21ライブレポート #ozkn - 小さなドーナツを描いていた

 弾き語り向きの曲ですね。「夜と日時計」や「いちょう並木のセレナーデ」などの系統というか。
 2015年5月14日、「岡崎京子展 戦場のガールズ・ライフ」(世田谷文学館)の最終日におこなわれたライブでも演奏されていますが、世田谷文学館のサイトに掲載されているレポート(書かれたのは世田谷文学館の職員の方?)では、以下のように表現されています。

そして3年前に発表された新しい曲「神秘的」。日常的な風景が崇高な世界観へと繋がってゆく、小沢さんならではの美しい曲でした。
これまでの活動報告 - 世田谷文学館

 
 「流動体」で熱くなった心と身体を、「神秘的」でゆっくり落ち着けて――けれど歌詞によくよく耳を傾けてみるとハッとさせられる――今回のシングルは、そんな聴きかたになりそうです。
 
 興奮を落ち着けようと書き始めてみたものの、書けば書くほど、早く聴きたくなってたまりませんね。発売はもう間もなく。発売日当日はもちろん仕事ですが、(仕事関係者の)マーク外す飛び込みでサッと入手して、一刻も早く聴きたいと思います。
 あと個人的には、「流動体」をカラオケで唄えるのがとても嬉しいです。「シッカショ節」*4が入っているくらいなので、今回も間違いなくカラオケ入りするでしょう。……入りますよね?(ちょっと不安)
 
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(CDを聴いたうえで)「流動体について c/w 神秘的」について

(ここから先は、ぜひ実際に聴いてからお読みください)
 聴きました。
 最高です。思った通りに、いや、思いもよらないほど。
 
 鋭角のバンドサウンドだったライブ版から、ストリングスやコーラスによって軽やかに空を舞うようなアレンジにガラッと変わっていたので、正直、最初は戸惑いもありました。でも、聴いているうちにすぐ耳が馴染みました。たぶん、ライブで聴いていない人はもっとすんなり聴けるんじゃないでしょうか。
 
 なんといっても、服部隆之さんによるストリングスアレンジは圧巻ですね。「LIFE」期さながら。もし今後さらに新曲がレコーディングされるのなら、このストリングスにスカパラホーンズが絡んだりもするのかな……なんて、ついつい夢想してしまいます。
 具体的には「ぼくらが旅に出る理由」のストリングスに近いかな、と思いつつ「小沢健二AMA」のログを読み返していたら、ご本人のこんな発言を見つけました。

金曜日にミュージックステーションで2曲やります

流動体と、もう一曲は

流動体のストリングスは、前の曲をモチーフにしていて
小沢健二AMA 私の並行世界 (1/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 Mステでやるもう1曲は、「ぼくらが旅に出る理由」。つまり、ここでモチーフにした「前の曲」とは「ぼくらが旅に出る理由」なのでしょう。ますますMステが楽しみになってきました。
 
 そしてコーラスワークも美しい。おなじみの(だけど魔法的に不参加で寂しかった)真城めぐみ、「東京の街が奏でる」でゲスト出演した永積タカシ(ハナレグミ)、そして意外なところで一十三十一*5。一十三十一は2016年1月20日の「魔法的」ツアー発表の場にもいらしたようです。


 
 あと、ストリングス以外の楽器編成や、サウンドのミックスもちょっと珍しいテイストですよね? ボリュームを上げまくっても耳に突き刺さる感じがなくてむしろ心地よい感じがするし、スピーカーでもイヤホンでもボーカルが間近に感じられるし。
 インスト版で聴くとまた、演奏に聴きどころがいっぱいあって。何度聴いても全然飽きません。
 
 そもそも、曲の構成自体も変わってますよね。とくに曲後半のサビの畳みかけっぷり。この、わけのわからない高揚感でどこまでも飛んでいくような感覚こそ、小沢健二の曲の大きな醍醐味だと思います。
 
 楽器編成以外で、ライブ版(記憶に頼っているので曖昧な部分もありますが)と明らかに違うのは、イントロの長さですね。かなり短くなってます。
 「魔法的」は新曲の披露時に歌詞をスクリーンに映していたのですが、「流動体」のときは16小節くらいのイントロで一通りの歌詞をパッパッと(読みきらないうちにどんどんページが進んでしまうくらいのスピードで)映してから、「羽田沖~♪」と歌い出していました。そして、歌い出してからはずっとスクリーンは真っ暗……と思いきや、2度目のサビの「もしも間違いに気がつくことがなかったのなら?」のところで再度歌詞が登場! という演出だったと記憶しています。
 
 一方「神秘的」は、「流動体」で高揚しきった心をやさしく落ち着かせてくれますね。
 何度も聴いていくうちにじっくり染み込んでくる曲だと思うので、まだ語れるほどの感想をもっていませんが……ゴスペル的なコーラスや、歌詞で「イスラム教の詩」と「キリスト教の詩」と「台所の歌」を対比しているあたりが、たまらなく好きです。いろいろな文化・国籍を匂わせつつも、一色に染まりきっていないというか。
 
 ……とりあえず聴いたばかりの印象を思いつくままに書いてみたので、どうにもごちゃっとしてしまいますね。また何か気づいたら書き足すかもしれません。まあ、一言でいうなら、「最高」です。要は。

 また、店着日の2/21(火)、TwitterでいろいろなCDショップの特設コーナーの写真をたくさん目にしました。
 1日2日で用意できるとは思えないくらい、どれもこれも凝っている。
 ということはみんな、「流動体について」が出ると知りながら、発売日に向けて密かにコツコツと準備してきたんでしょうね。
 そのことに気づいて、かっこいいな、と素直に思いました。
 小沢健二の新作の発売日であると同時に、お店の人たちがコッソリと仕込んできたPOPの発表日でもあったんだな、なんて。

*1:CDは「我ら、時」以来5年ぶり。スタジオ録音作は「毎日の環境学」以来11年ぶり。ボーカル入りのスタジオ録音作は「Eclectic」以来15年ぶり。そして、シングルCDは「春にして君を想う」以来19年ぶり

*2:岡崎京子展のセットリストにも含まれていた模様

*3:いや、「フクロウの声が聞こえる」も捨てがたい……個人的な好みで言うなら「超越者たち」も……

*4:2010年のツアー「ひふみよ」で発表された新曲。現在のところ、ライブ音源しか存在しない

*5:お父様のお店、マジックスパイスも大好きです