署名活動「電気グルーヴの音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止を撤回してください」の話【1】

 2019年3月15日に、タイトルのとおりの署名活動をはじめました。
 発起人は社会学者の永田夏来先生と、私、音楽研究家*1のかがりはるきです。


 おかげさまで活動開始から1週間で6万人以上の方からご賛同いただき、現在は約6万4千筆が集まっております。
 ここ2~3週間ほど表立って報告できずにいたのですが、いろいろと水面下で準備を進めた結果、近日中に株式会社ソニー・ミュージックレーベルズへ直接署名を持参することとなりました!
 つまり、いま署名やコメントをいただければ、確実に、あなたの想いを株式会社ソニー・ミュージックレーベルズへ届けられます!
 
 まだ進行中のため総括する段階にはありませんが、ここで一旦、今までの経緯や自分たちの考え方などを整理しておきたいと思います。
 

これまでの経緯

 事件そのものの推移、事務所・レコード会社・その他関連作品の対応、関連報道、そして我々の署名活動の経緯等々をすべて時系列順に並べています。長いです。

種別 概要
3/12 深夜 事件の推移 ピエール瀧、コカイン使用(麻薬取締法違反)の疑いで逮捕
3/13 午前 関連作品の対応 NHK、TBSラジオ、静岡朝日テレビ、LIXILなどのサイトにおいて、ピエール瀧関連のコンテンツが削除
3/13 12:00頃 事務所の対応 ソニー・ミュージックアーティスツ、『電気グルーヴ30周年“ウルトラのツアー”』東京公演(3/16,17)の中止を発表
3/13 13:00 事務所の対応 DENKI GROOVE INFORMATION(公式ファンクラブ)、会員へのメールで「新規入会受付・継続手続き停止」「今後の運営は協議中」と告知
3/13 昼~夜 関連作品の対応 NHK、静岡朝日テレビ、セガゲームス、ウォルト・ディズニー・ジャパンなど各社がピエール瀧の出演作品の放送中止・出荷停止・キャスト交代等を発表
3/13 夕方 メディア TBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』薬物報道において必要な視点とは。プチ鹿島が取材報告
3/13 19:00頃 レコード会社の対応 ソニー・ミュージックレーベルズ、音源および映像の出荷停止・在庫回収・配信停止を発表
3/13 22:00 メディア TBSラジオ『荻上チキ Session-22』ピエール瀧さんに関する報道を受けて、荻上チキが「薬物報道」の重要ポイントを指摘
3/14 11:00頃 事務所の対応 石野卓球、3/23開催予定の「Pump It Presents Takkyu Ishino」への出演中止を発表
3/14 11:05 著名人・関係者の発言 大友良英、『あまちゃん』総集編の再放送休止に対し疑問を唱えるツイート
3/14 12:00 著名人・関係者の発言 石野卓球、「Pump It Presents Takkyu Ishino」への出演中止のお知らせを「だとよ」のコメント付きでツイート(事件後初の発言)
3/14 署名 発起人2人の間で署名活動の企画が持ち上がり、準備開始
3/14 関連作品の対応 NHK『いだてん』、松竹『居眠り磐音』、スクウェア・エニックス『キングダムハーツIII』、各作品でピエール瀧から代役への差替が発表
3/15 3:34 著名人・関係者の発言 坂本龍一、電気グルーヴの出荷停止等に対し異議を唱えるツイート
3/15 5:00 署名 キャンペーンページ立ち上げ(告知はまだ)
3/15 11:00 署名 署名活動を告知
3/15 13:50 著名人・関係者の発言 ソウル・フラワー・ユニオン公式アカウント(中川敬)、署名活動を拡散
3/15 17:25 メディア J-CASTニュース電気グルーヴ楽曲自粛に「撤回求めます」 社会学者ら提唱、署名サイトで3000筆集まる
3/15 20:00 署名 FAQ更新「時間が経てば再販するのでは?」
3/15 不明 メディア FNMNL電気グルーヴの作品の出荷・配信停止処分の撤回を求める署名がスタート
3/15 21:55 署名 賛同者数1万人突破
3/15 11:00 事務所の対応 電気グルーヴ、「ARABAKI ROCK FEST.19」の出演キャンセルを発表
3/15 17:00頃 事務所の対応 電気グルーヴ、「FUJI ROCK FESTIVAL '19」の出演キャンセルを発表
3/15 22:10 署名 FAQ更新「署名の目標人数は?」
3/16 5:46 著名人・関係者の発言 大友良英、“やはりどう考えても「あまちゃん」後編の放送自粛は良くない”とツイート
3/16 15:55 署名 賛同者数2万人突破
3/17 9:17 メディア BuzzFeed News、取材記事掲載「不祥事が起きる→関連作品は封印」でいいのか。電気グルーヴの「自粛」撤回求める署名、発起人の思い
3/17 13:47 メディア ハフポスト日本版、取材記事掲載電気グルーヴCD回収への反対署名が2万5000人突破。呼びかけ人は作品封印を「誰のためにもならない安易な方策」と訴える
3/17 15:00頃 メディア BuzzFeed News取材記事がYahoo! Japanトップに掲載
3/17 21:50 署名 賛同者数3万人突破
3/18 著名人・関係者の発言 日高正博(SMASH代表)、「電気グルーヴの作品販売中止に関して言いたい事がある」とメッセージを発表
3/18 関連作品の対応 109シネマズ、爆音映画祭『シン・ゴジラ』を予定通り上映すると発表
3/18 20:00 署名 賛同者数3万5千人突破
3/19 17:00 メディア TBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』署名活動を紹介、賛同者数が急増
3/19 17:30頃 署名 賛同者数4万人突破
3/19 21:25 署名 賛同者数5万人突破
3/19 署名 FAQ更新「作品の販売等を続けるのは反社勢力への利益供与になるのでは?」
3/20 9:30頃 関連作品の対応 東映、『麻雀放浪記2020』のピエール瀧出演シーンを残したまま劇場公開すると発表
3/20 著名人・関係者の発言 大崎志朗(CHAGE and ASKA所属事務所前代表)、Musicman-netへ寄稿"自粛"という得体の知れない存在、アーティストの不祥事と作品の自粛について
3/20 署名 署名キャンペーンページに英文の趣旨を追加し、海外の電気グルーヴ関係者やファンに署名活動への応援を呼びかける
3/22 1:00 著名人・関係者の発言 いとうせいこう、署名活動への賛同を表明
3/22 18:00頃 関連作品の対応 NHKエンタープライズ、ピエール瀧の出演作(『64』や『あまちゃん』など)のDVD販売継続を発表
3/22 関連作品の対応 セガゲームス、『JUDGE EYES:死神の遺言』の欧米版を、ピエール瀧の演じているキャラクターを差し替えた上で発売すると発表
3/22 11:00頃 署名 賛同者数6万人突破(キャンペーン開始から1週間経過とほぼ同時)
3/23 署名 FAQ更新「どうして今回初めて声を上げたのでしょうか?」
3/23 5:00 メディア 朝日新聞、(Media Times)薬物報道、配慮求める声 「コカイン使用」ピエール瀧容疑者逮捕
3/24 著名人・関係者の発言 石野卓球、ベルリンからツイート再開
3/24 10:30頃 メディア TBSテレビ『サンデージャポン』にて署名活動を紹介
3/25 メディア NHK NEWS WEB、取材記事掲載作品に罪はない? ピエール瀧作品 相次ぐ“自粛”の波紋
3/26 19:00 メディア DOMMUNE、「DJ Plays "電気グルーヴ" ONLY!!」5HOURS!!!!! BROADJ♯2703 WHO IS MUSIC FOR? MUSIC IS FOR EVERYONE!を生配信
3/26 22:00 メディア TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』ピエール瀧氏の出演作公開中止や販売自粛に異議
3/29 メディア Business Journal、江川紹子の「事件ウオッチ」【ピエール瀧逮捕余波】誰のための、何のための自粛かーー炎上を恐れて失われるもの
3/31 12:00頃 署名 賛同者数6万3千人突破
4/2 6:30 メディア 朝日新聞、消えた電気グルーヴの曲 定額制のリスク「CDは必要」
4/2 20:00 事務所の対応 ソニー・ミュージックアーティスツ、ピエール瀧が起訴されたことを受けてマネジメント契約の解除を発表
4/2 20:00 事務所の対応 DENKI GROOVE INFORMATION、会員へのメールでファンクラブ休止と返金を告知
4/2 17:26 メディア 産経新聞、ピエール瀧被告 出演作相次ぐ自粛に波紋
4/3 12:00頃 事件の推移 ピエール瀧の弁護人、東京地裁に保釈を請求
4/4 13:00頃 事件の推移 東京地裁、ピエール瀧の保釈を認める
4/4 19:00 事件の推移 ピエール瀧、保釈
4/8 5:46 著名人・関係者の発言 石野卓球、「ツイッター今日でやめます」と発表(最後の投稿は「おしマイケル!」)
4/8 20:00 署名 署名発起人(永田・かがり)、ソニー・ミュージックレーベルズへ署名持参することを発表

署名活動のこれまでとこれから

 では、今回の署名活動の経緯を詳しく振りかえってみます。
 これはあくまで外枠の話なので、署名活動の具体的な趣旨や論点等は、稿を改めて詳しく書きます(キャンペーンページ僕のTwitter、それに我々が取材を受けた記事(Buzzfeed Newsハフポスト日本版NHK NEWS WEB)もご参照ください)。
 

署名をはじめるまで

 署名活動自体は共同発起人の永田先生による発案です。
 ただ、署名活動を持ちかけられる前から「何か自分にできるアクションはないか」と個人的に悩んでいました。(音楽に限らず)不祥事が起きるたびに関連作品が片っ端から封印されることに前々から疑問がありましたし、今回のピエール瀧さんの逮捕後、自分の好きな作品が消えてゆくのを目の当たりにしてあらためて「どうしてこんな自粛が必要なのだろう?」と深く考え、この違和感をどうやって表現しようか――そう思っていた矢先にちょうど永田先生からのお誘いがあったのです。
 なお、キャンペーンページの文面は主に永田先生が、FAQのほうは主に僕が書いてます(もちろん公開前にお互いのテキストはチェックしてます)。FAQはどれもかなり力を入れて書いたので、賛同者のかたにも反対意見をお持ちのかたにも、できるだけ多くの人に読んでいただきたいです。
 余談ですが、キャンペーンページに載ってる電気関連グッズはすべて僕の私物です! 立ち上げ前日の夜にあわてて並べて撮りました*2
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キャンペーン開始1週間で目標人数の倍に

 賛同者数の目標は最初から「1万人(できれば3万人)」でした。この人数に至った具体的なロジックはFAQに書いてますが、1万人を超えなければ「レコード会社から相手にされない」でしょうし、3万人を超えれば「レコード会社も無視できない」だろうと直感的に思いました。
 で、いざ始めてみると、1日足らずで1万人を超え、あれよあれよと3万人を突破。そろそろピークを過ぎたかな……と思ったらまた急に勢いが増して、開始から1週間でちょうど目標の倍の6万筆の署名をいただきました。ご賛同くださった皆さまには心から感謝です!
 
 電気グルーヴの音楽は世界各国で聴かれているので、途中からキャンペーンページに英語の主旨を追記しました。Spotifyなどの配信サービスで急に電気が聴けなくなったことに困っておられる人たちへTwitterで直接英語のリプライを飛ばしてご協力いただいたり、さらには電気グルーヴの楽曲「UFOholic (Acid Abduction Mix)」のものすごいMVを作ったイギリスのcyriak harrisさんへ「あなたの素晴らしいMVをまた観たいので署名に協力してほしい」とお願いしたところ快く拡散いただいたり。こんな形で国際交流するなんて思ってもみなかった。


 また、我々がびっくりするような著名人の方々にも多数ご賛同いただいております。署名はすべて大事な個人情報ですし、あくまでプライベートで署名してくださった方もおられるので、具体的なお名前を挙げるのは(Twitter等で賛同を公言されているかたを除いて)差し控えさせていただきます。ただ、一部の方々には今回、署名をソニー・ミュージックレーベルズへ持参するにあたって「賛同人」をお願いし、ご了承いただきました(今回の件がなければまったく接点がなかったであろう方々とやり取りさせていただき、個人的には震えまくりの日々でした)。賛同人の方々のお名前はまた追って正式に公表させていただく予定でおります。

署名の持参へ

 さて。いよいよ、6万4千人以上の皆さまの想いを株式会社ソニー・ミュージックレーベルズへ直接届けられる運びとなりました。
 
 我々としても、もっと早く署名を持参したかった。それが正直な思いです。
 署名を持参できるよう早い段階から全力で動いてきましたが、どうしても時間がかかってしまいました。瀧さんの逮捕から現時点で既に1ヶ月近く経っており、その間に事件をとりまく状況も刻一刻と変化してきました。
 「遅すぎる」といったお叱りの声もあるかと思います。申し訳ないです。事件の続報を聞く度にやきもきしていたのは我々も同じです。とくに4月2日、瀧さんの起訴を受けて所属事務所のソニー・ミュージックアーティスツから契約解除が発表されたときには、非常に悔しい思いをしました。
 
 ただ、今からでも遅きに失しているとは思いません。
 今回の署名活動の標題は「電気グルーヴの音源・映像の出荷停止、在庫回収、配信停止を撤回してください」ですが、けっして「電気グルーヴの作品だけを特別扱いしてほしい」「ピエール瀧さんが好きだから大目に見てほしい」などと思っているわけではありません
 電気グルーヴの作品回収等が撤回されるのを望むとともに、こうした「自粛」は今回を限りに改まってほしい。それが我々の動機であり、願いです。
 今回の関係各社による対応についてさまざまな意見が飛び交い、今後の「自粛」のあり方を考えるきっかけになってほしい。そう思っております。
 
 なお、署名を取りまとめて印刷等の作業に入るため、4月10日(水)24時をもって署名の受付を一旦締め切らせていただきます
 駆け込み署名も大歓迎ですので、今からでもぜひ、ご賛同いただけると幸いです。
 署名に添えられたコメントも拝読しておりますが、皆さま、めちゃくちゃ熱くて最高です。もちろん、こちらもすべて印刷しお届けする予定です。
 冒頭にも書きましたが、繰り返します。いま署名やコメントをいただければ、確実に、あなたの想いを株式会社ソニー・ミュージックレーベルズへ届けられます!
 
 ――というわけで第1回はここまで。次回は、この事件の論点や署名活動の趣旨、それに今回の活動を通して気づいたことなどを書いてゆきます。

 
 最後に、今回の件を追ってきたなかで最も印象的だった文章を紹介いたします。
 ロックダムアーティスツ(CHAGE and ASKA所属事務所)の代表取締役だった大崎志朗氏による、Musicman-net(音楽業界関係者向けの情報サイト)への寄稿です。
 大崎さんが書かれているのは2014年にASKAさんが逮捕されたときのお話ですが、本稿が公開されたのは2019年3月20日。文中では明言されていないものの、明らかに今回のピエール瀧さん逮捕とそれに伴う関係各社の対応を踏まえて執筆・公開されたものとみて良いでしょう。一人でも多くのかたに読んでいただきたい文章です。ぜひ。

 

*1:今回のために慌てて考えた肩書き

*2:各メディアで署名活動が紹介される際にもあの写真が使われまくっているので、頑張って撮った甲斐があったなと思う反面、もうちょっとうまく撮れたんじゃないかって反省もあり