平成30年8月のニューヨークシティ【1日目】マンハッタンまでの長い長い長い道のり

はじめてのニューヨークシティ

 2018年8月中旬、はじめてニューヨーク州ニューヨークシティ(NYC)へ行ってきた。
 4泊6日の1人旅で、マンハッタンに2泊、ブルックリンでも2泊。NYCへ行きたい理由はいろいろあったし、何ヶ月も前から楽しみにしていたけど、その期待以上に多くのものを得られる旅だった。なので、その道中を(例によって)事細かに記録していきたい。

シカゴで振り回される

 8月11日、朝。始発で東京駅まで行き、東京駅前からシャトルバスに乗って成田空港へ。帰りは直行便だが、行きはシカゴ経由の便にした。成田⇒シカゴ(オヘラ空港)⇒ニューアーク。
 シカゴでの乗継時間は約3時間。アメリカの入国審査やらなんやらでそこそこ手間取ったとしても、空港のなかでお土産や軽食を漁る程度の時間はあるだろう――なんて思ってたが、甘かった。そんな呑気に言ってられる状況ではなかった。
 
 シカゴに着くまでは順調そのものだった。シカゴに着くまでは。

 定刻通りに成田を発ち、機内では映画を4本観た。『15時17分、パリ行き』『ピーターラビット』『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』『グレイテスト・ショーマン』。ほどほどに睡眠もとり、シカゴのオヘラ空港に降り立ったのは予定よりも40分も早い8時10分。

 アメリカの入国審査は以前より自動化が進んでいるのかスムーズだし、機内預け入れの荷物もないから、あっという間に空港のロビーまで出られた。

 自分が降り立ったターミナル5から、アメリカン航空(AA)のターミナル3へ列車で移動し、さっさと手荷物検査を済ませることとする。アメリカの空港の場合、国際線だろうと国内線だろうと手荷物検査には時間がかかるのだ。なにせ靴まで脱がなきゃいけない。
 
 手荷物検査を済ませた段階で、ニューアーク行きの便の搭乗開始まで約2時間。
 全然知らなかったが、オヘラはアメリカの空港のなかでもかなり規模の大きい部類になるようだ。ひとつのターミナルのセキュリティエリアだけでも、ちょっとした商業施設くらいの規模がある。飲食店も売店もいっぱいあるから、搭乗まで手持ち無沙汰にはならないだろう。
 時間は十二分にあるけど、とりあえず自分の便の搭乗口まで一度向かってみることにした。
 搭乗口はどこかな――と、空港内の出発予定便の一覧を見たところで、目を、疑った。
 

 
 Cancelled
 
 きゃんせるど? ごめん英語はあんまり得意じゃないんだけど、日本語でもよく使う、いわゆるあのキャンセルと同じ意味? つまり運休?
 
 あわてて近くのAAの窓口へ駆け寄り、大柄な黒人のおじさんにチケットを突きつけ「この便キャンセルになったの!?」と質問。チケットに目を落とし、手元のPCのキーボードを叩きながら答える。「そうだ。次のニューアーク行きの便は15時過ぎに出るから、そこへ振替えになるな」それだと当初の便より3時間以上も遅くなる。「もうちょっと早い便は無いの? ニューヨークの他の空港、JFKやラガーディアに着く便でもいいんだけど」「それなら向こうのカウンターで訊いてくれないか」
 
 案内されたカウンターへ向かうと、黒人の若いお姉さんと兄ちゃんがヒマそうにお喋りしていた。「この便の振替を頼みたいんだけど」「OK」お姉さんの方がてきぱきとキーボードを叩く横で、兄ちゃんは変わらずヒマそうにiPhoneでゲームかなにかの動画を観てる。AAの接客、めちゃくちゃユルいな! 「はいこれでできた。ワシントンD.C.行きの便を手配したから、●番搭乗口から乗ってね」「ワシントンD.C.!? 僕が行きたいのはニューヨークシティなのに?」いくらアメリカの地理に疎いくても、ニューヨークとワシントンが別々の州だってことくらいは知ってる。「大丈夫、ワシントンD.C.からラガーディアへの便に乗り継ぐの」「ああ、そういうことね……Thank you」この説明で安心してカウンターを去ってしまったが、よくよく考えてみたらフライトの時刻を訊けてない。全然Thank youじゃない。搭乗口がわかればオヘラ⇒ワシントンD.C.の出発・到着時刻は調べられるけど、ワシントンD.C.⇒ラガーディアの便は何時に発つのかさっぱり不明だ。
 
 いろいろと不安になってきたため、空港内の公衆電話からAAの日本語受付ダイヤルへ問い合わせてみることにした……が、「ただいま混み合っております」のアナウンスが延々とループして一向に繋がらない。JALのコードシェア便なのでJALにもかけてみたが結果は同じ。腹をくくって、この場にいる係員に英語で挑むしかない。
 
 ワシントンD.C.への便の搭乗口へ向かい、そのカウンターのお姉さんにあらためて質問した。「ニューアーク行きの便がキャンセルになって、ワシントンD.C.経由でラガーディアへ行くことになったんだけど、振替になった便それぞれの時刻を教えてほしい」「I don't know」あ、アイドンノウ? いま一番聞きたくない答えだ。……ここまで何人かとやり取りしてきて、身に染みてわかったことがある。よく言われることだけど、アメリカでは自分の主張をとにかく口に出さないと話が進まない。だからここはしつこく食い下がるしかない。「いやいや、調べてよ!」しょうがねえな、って表情でしぶしぶキーボードを叩きはじめるお姉さん。僕が差し出したニューアーク行きの便(運休)のチケットの裏にマジックで時刻が記入される。なるほど、17:31にはラガーディアに到着できるんだな。当初の予定よりは遅れるが、まあ許容範囲内だ。ワシントンD.C.空港も見物できるチャンスができた! と前向きに考えることとしよう。ところで、自分の手元にはメモ書きだらけのニューアーク行きの便のチケットしかない。「このチケットで代わりの便に乗れるの?」「うん、それで大丈夫よ」へえ、そんなものなのか。それじゃあとはこの搭乗口で待つのみ……と思ったら、お姉さんに呼び止められた。「ちょっと待って。ワシントンD.C.行きの便の搭乗口が●番へ変更になったわ」●番って、現在地と全然違う! さっきキャンセルになった便の搭乗口のほうがむしろ近いくらいだ。さらにこの後、もう1回搭乗口が変更になった。どれだけ大雑把なんだ。
 
 そんなこんなでさんざんに振り回されたが、ようやく目処が立ったのでアメリカ入国後最初の食事をとることにした。シナモンクランチの入ったベーグル。なんともアメリカらしい、硬くて大味な甘塩っぱさだった。

 それにしても、自分と同じように成田からオヘラ経由でニューアークへ向かう予定の人も少なからずいたと思うけど、みんなどうしたんだろう? ふと、便を変更した際に立ち寄ったカウンターへ目を向けてみると大行列ができていた。しかも一人ひとりの対応に時間がかかっており全然進まない。シカゴ⇒ニューアーク便の予定時刻が近づくにつれ、運休に気づいてカウンターへ駆けこむ人が増えてきたようだ。カウンターがヒマな時点で早々に対応してもらえた自分はまだマシだったかもしれない……。
 日本時刻では既に深夜だったが、このころ、TwitterのタイムラインはNHKの『おやすみ日本』を実況する人たちで賑わっていた。岡村靖幸が生出演し、トークにくわえて何曲か披露しているらしい。自分も岡村ちゃんの弾き語りを聴きたかった。
 
 ワシントンD.C.行きの便の搭乗時刻になって、ふと気づいた。自分の座席番号はいくつなんだ? 自分の手元にあるのは運休になった便のチケットのみ。これでそのまま乗れるとは聞いたけど、どのタイミングで搭乗口に並べばいいのかわからない。仕方ないので搭乗口の行列が短くなるまで待つことにした。どうせ早く並んでも遅く乗っても飛行機の離着陸の時間に変わりはない。
 搭乗口でチケットを差し出すと、「あなた、搭乗券は持ってないの? なんで持ってないの?」と言われた。いやいやさっき「このチケットで乗れる」って聞いたんだよ! フライトまで時間がないのに余計な仕事を増やすなよ、といった表情で担当者が端末を操作すると、ワシントンD.C.行きのチケットとラガーディア行きのチケットの両方が出てきた。やっぱり発券する必要があったのか……。呆れながらも搭乗しようとしたら、「あなたの荷物、貨物室で預かるから」とスーツケース(機内持込み可能なサイズ)をぶんどられた。なんなんだ。
 
 へとへとになりつつ搭乗。チケットの発券やら荷物の預け入れやらで手こずっているうちに自分以外の乗客はみんな既に着席しており、機内の通路を塞いで機長とCAがにこやかに立ち話をしていた。AA、窓口どころか機長までユルいのか。別にCAとお喋りするくらいは構わないけど映画『フライト』のデンゼル・ワシントンみたいなアル中ではありませんように、と願いながら機長とCAの間を通り抜ける。
 
 2時間弱の国内線だからか、乗客のテンションも高くない。「旅行」というより「移動」の感覚で乗っている人が多いのだろう。右隣の白人中年女性は離陸間際までPCを開いており、CAに注意されていた。左隣の白人女学生はシートベルトも締めずに椅子の上で足を組み教科書にマーカーを引きながらマクドナルドのポテトを食べている。真面目なんだか不真面目なんだか。
 AAでは機内のWi-Fiに自分のスマートフォンやPC等を繋げると映画が観られる(ネットは別料金)。もちろん日本語字幕は無いのだけど、既に観た映画ならストーリーは知ってるし、ということで大好きな『クリード』を観ることにした。
 ただ、オヘラ空港のゴタゴタで相当疲れが溜まっていたらしい。しかも日本時間でいえば今は真夜中。アドニス・クリードがロッキー・バルボアに弟子入りするかしないか、のあたりで眠気の波に襲われ――気づけば、機内アナウンスがワシントンD.C.への着陸準備を告げていた。

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ワシントンD.C.で足止めをくらう

 フライト自体は2時間弱だが、シカゴとワシントンD.C.では1時間の時差がある。ゆえに時刻はシカゴを発って3時間後。

 ワシントンD.C.空港(DCA)は国内線がメインの小さな空港だ。
 到着口と搭乗口が同じエリアにあるため、乗換えの際は面倒な手荷物検査を省略できる……のだけど、自分の場合は搭乗間際にスーツケースを預入れ(させられ)ている。これをピックアップしなきゃならない。
 
 荷物の受取り口でしばし待つも、自分の荷物は出てこないままコンベアは停止してしまった。ってことはラガーディアの便に載替えられてるのか? 状況が状況だけに心配だ。
 不安になりながらも手荷物検査へ向かう。この時点でラガーディア行きの便の搭乗開始時刻を迎えていたので焦るが、フライト予定表を見てみると10分遅延しているようだ。よかった。これくらいの遅延ならむしろありがたい。
 
 手荷物検査をスムーズに通過し、先ほどの到着口のすぐそばにある搭乗口へ向かう。すると、搭乗口のモニターには「30min Delay」の文字。それくらいの遅延ならまあ我慢できるかな……と思ったのもつかの間、「1hr Delay」に表示が変わった。10分遅れから30分遅れ、そして1時間遅れ。嫌な予感のする展開だ。
 1時間遅れとなると、本日のマンハッタンでの予定にも差し障ってくる。この日の20:00から『STOMP』というショーを観る予定でチケットも取っていたが、このまま順調にいってもラガーディア空港には18:30着。荷物をピックアップしてホテルへ向かうだけでも1時間はみるべきだろう。そしてホテルから『STOMP』の劇場まで最短でも約30分。ギリギリすぎる。ホテルを経由せず、劇場へ直行するか? 劇場の近くにスーツケースを預ける場所は? ……どうやらありそうだ。この作戦でいこう。
 
 あとはもうフライトを待つしかない。喉も渇いたので、売店を見てまわることにした。空港の規模が規模なのでそんなに珍しい店はないが、いろいろ物色していたら実にワシントンD.C.らしいものを発見。



 さすがホワイトハウスのお膝元!(他の空港でも扱ってそうだけど) とくに後者、裏面に「Made in Russia」と書いてあるのが最高だ。$9.99(日本円で1000円以上)と決して安くはなかったが、つい購入してしまった。
 
 そうこうしている間に出発時刻の17:00が近づいてきた。慌てて搭乗口へ駆けつけるも、まだ全然搭乗が進んでいない。フライト10分前の段階で搭乗待ちの人が何十人もいる。
 いざ搭乗してみると、空席の関係なのかなんなのか、自分に宛がわれた座席は機内最前エリアの明らかに上等なシートだった。国内線だからファーストクラスやビジネスクラス級ではないものの、いわゆるプレミアムエコノミー相当のスペースの広さ&シートの柔らかさだ。これまで散々な思いをしてきただけにこれはけっこう嬉しい。たった1時間半のフライトだけど。
 シートに深く腰掛けるなり、CAから「何か飲みます?」と訊かれた。おお、たまたま良い席を宛がわれただけなのに扱いが違う! しかし「Apple Juice」と頼んだはずが差し出されたのは水だった。
 
 搭乗口のドアが閉まり、そろそろiPhoneを機内モードにしようか……と思ったタイミングで、AAから1通のメールが入った。

 現時刻は17:01だけど、このメールには18:05発と書かれている。え、もう1時間遅れるの? でも機内は今すぐに滑走路へ向かいそうなムードだ。このメールが何かの間違いであることを願うが、いっこうに飛行機が動き出さない。
 10分ほど経ったところで機長のアナウンスが流れた。「当便はこれより1時間、予定より計2時間遅れることになりました」うん、それ知ってる……。機長より先に乗客へメールで連絡が入るって、どういうシステムなんだ。
 もうみんなシートベルトを締めてるけど、このまま1時間待機するんだろうか? このシートの座り心地が良いし個人的には降りなくてもいいけど、と思ってたら、一旦みんな降りることになった。そりゃそうか。
 

 空港の搭乗口前に引き返したところで、またメールが入った。さらに30分遅れで、ラガーディア空港には20時過ぎの到着予定だという。これじゃもうどうやっても『STOMP』には間に合わない。
 前日にシアトル空港でハイジャックがあったらしいから、そのしわ寄せでいろんな便に影響が及んでいるんだろうか――と思って発着便一覧のモニターを見てみるも、大半の便は定刻通りかせいぜい30分以内の遅れに留まっている。ってことは自分の搭乗する便だけピンポイントにこんなめちゃくちゃなトラブルが続いているのか……。
 こんな目に遭うくらいなら、DCAなんて経由しないで素直にオヘラ⇒ニューアークの次の便に乗ったほうが早かったのでは? と疑念が湧くが、いま考えてもむなしいだけだ。あっちの便はもっと遅れていたかもしれない。きっとそうだ。でもそっちの便の運行状況を確認する気にはなれない。心が折れるおそれがあるから。
 とにかく、1人でアメリカ横断ウルトラクイズに挑戦してるんじゃないかってくらいニューヨークへたどり着くまでの難関が多すぎる。この頃にはもう怒りや焦りといった感情はとうに消え去っており、今夜中にマンハッタンへ到着できればもう充分、そんな境地に達していた。
 

 少なくとも向こう1時間半は足止めが続くが、こんなときにありがたいのが自由に使える電源コンセント。R2-D2風のデザインがかわいい。
 不幸中の幸いで、電源やネット回線に関しては一度も困らずに済んだ。今回訪れたアメリカの空港にはいずれも「広告を見たら45分間無料で繋げられるよ」方式のWi-Fiがあったのでこれも助かった。
 
 しばらくTwitterなどを見て時間を潰していたが、ふと搭乗口のほうを見ると、「Boarding Finished」の表示が出ていた。ふぃ、Finished!? いつの間に?
 あわてて荷物をまとめて搭乗口へ駆けこむ。今日はこんな場面ばっかりだ――ところが、機内に乗客の姿はまばら。どうやらみんな搭乗再開したことにまだ気づいてないようだ。「Finished」の表示に焦ったけど、全然焦ることなかった。
 
 みんな乗り込んで搭乗口も閉まって滑走路の手前まで走行し、今度こそ離陸できるか? と身構えるが、なかなか滑走路へ向かってくれない。
 30分ほど待ったところで、機長のアナウンスが流れた。喋ってる内容の9割以上はよくわからない。けど「アメリカ人でもこんなに遠回しな喋りをするのか!」って驚くくらい申し訳なさそうな口調だ。自ずと、伝えんとしている内容は理解できる。
 アナウンス終了とともにシートベルト着用サインが消灯。乗客のため息。また一回休みだ。
 
 機内のトイレへ向かうと数人が並んでおり、個室の中からおじさんが電話で怒鳴る声が聞こえてきた。個室の意味をなさないくらいの大音量で怒声が聞こえてくるので、同じく並んでいた白人の青年と顔を見合わせて苦笑いをする。
 
 15分ほど経ったところでまた機長のアナウンスが始まった。喋ってる内容は相変わらずよくわからないが、口調も相変わらず明るくない。こりゃあ空港へ後戻りかな、と思いきや、機内でぱらぱらと拍手が起こった。あれ、離陸できるの?
 間もなくベルト着用サインが再点灯し、エンジンの轟音が聞こえてくる。そこからはスムーズに離陸し、あっという間に窓の外はアメリカ東海岸を見下ろす景色となった。国防総省(ペンタゴン)と思しき建物がちらっと見えて、ああ本当に自分はワシントンD.C.にいたのだな、と初めて実感した。

 ラガーディアへのフライトは一度飛び立ってしまえばすぐだ。『クリード』の続きを観るほどの余力もなく、半分寝ているようなぼんやりした状態のまま1時間半を過ごした。
 

 離陸時には明るかった外の景色も、着陸するころには真っ暗になっていた。街の灯りが眼下に広がっている。
 
 ラガーディア空港へ着陸。
 「当機はラガーディア空港に到着しました」のアナウンスとともに、客席は拍手喝采に包まれた。
 離陸前もそうだったけど、こういうときに拍手が起こるのは「いかにもアメリカ」らしくて笑ってしまう。シカゴからNYCへの道中だけでもう、アメリカのダメな部分と憎めない部分をたくさん目の当たりにした気がする。

 到着をTwitterで報告すると、存外に多くの人からお祝いの言葉をいただいた。あれっ日本はまだ夜中なのでは? と思いきや、すっかり朝を迎えていたようだ。どっちかの夜は明け方。
 日本時間10:30に成田を発ち、日本時間翌9:30過ぎにラガーディアへ到着。予定では乗り継ぎの待ち時間も含めて17時間だったはずが、結果23時間以上もかかってしまった。Apple Watchの記録によれば、空港と飛行機の中しか移動していないのに、この日この時点で13,570歩も歩いたらしい。距離にして9.62km。

ラガーディアで衝撃を受ける

 立ち寄るはずのなかったワシントンD.C.空港を経て、やはり立ち寄るはずのなかったラガーディア空港に着いたのは現地時間で20:30を過ぎたころ。
 『STOMP』に間に合うかどうか、なんて次元ではとうになくなっていた。東海岸の空を飛んでいるうちに『STOMP』の幕は開いていたし、マンハッタンに着く前にはもう『STOMP』の幕は閉じているだろう。97ドルのチケットが台無しだ。
 
 もう1件、到着初日に『THE RIDE』というエンターテイメントバスへ乗る予定だった。『STOMP』の終演後に向かうつもりで22:30の回を予約している。こっちはどうにか間に合いそうだ。
 でも、決して時間的に余裕があるわけじゃないし、ラガーディア空港からマンハッタンへの公共交通機関は少ないし、なにより今日はもうへとへとだ。というわけで、Uber(白タクシーをアプリで手配できるサービス)を使ってみることにした。
 
 ラガーディア空港はDCAよりもさらに小規模だ。21時ごろの段階で到着口にいるのは同じ便に居合わせた人たちだけで、みんなで揃って預入荷物のコンベア前に並ぶ。
 自分の預入れ(するつもりはなかったのに強制的に預入れさせられた)荷物をDCAでピックアップできなかったのでラガーディアへちゃんと届いているか心配だったが、無事に受け取ることができた。
 
 スーツケースを転がしながら、はじめて使うUberのアプリで配車を依頼する。目的地(宿泊先のホテル)、便の種類(最も安い「Uber Pool」)を指定すると、最寄りの空き車両を自動で検索し、乗り場を指定してくれる。配車に時間がかかるかなと心配していたが、タクシー乗り場に乗客を待つ車列ができているのと同じようにUberのドライバーも何人か空港で待機しているらしく、瞬く間に「あなたが乗るのはこの車だよ、この地点で乗車してね」と表示された。早い!

 ラガーディア空港の場合、案内板をよく見てみると「Car Services」(アプリで車を呼んだ場合の乗り場はこっち)との表示があるのでこれに従ってひたすら歩いた。タクシー乗り場というより空港に併設された立体駐車場のような場所で、自分の依頼したUberの車両を発見。アプリで車種やナンバー、ドライバーの顔と名前なんかが表示されるので間違えずに済む。後部座席に乗り込み、「君の目的地は●●ホテルだね?」「Yes」のやり取りだけで出発。話が早い。
 ドライバーは名前と顔立ちから察するにアラブ系の中年男性で、「●●ホテルだね?」のひと言だけでハッキリわかるくらいクセのある英語の発音だった。Uberのアプリはドライバー向けカーナビの機能も兼ねているらしく、ドライバーの肩越しに、自分が指定したホテルへのルート案内が確認できた。自分のアプリでも同じルートが表示されているので、初めての街でもどんな経路で目的地へ向かっているのか一目瞭然だ。


 車がブルックリンに差しかかったあたりで、「▲▲様が同乗されます」とアプリに通知が届いた。そうか、Uber Poolだと相乗りもあるんだった。同じ時間帯に同じ方面へ向かう人がいる場合、Uber側でうまい具合に相乗りの手配をするらしい。はー、つくづく良くできている。
 ブルックリンの住宅地で乗ってきたのは、いかにも「これからサタデー・ナイトのパーティーへ行きます」といった格好の若いヒスパニック系女性だった。Uberは旅行者だけじゃなく、地元の人たちの日常の足にもなっているようだ。乗り合わせるなり「あなたどこへ行くの? シティ(街中)のほう?」と訊かれたのは、「街中を通ると時間かかっちゃうから嫌だな」という考えがあってだろうか。出身も立場も目的も全然違うアラブ系男性とヒスパニック系女性とアジア人男性が1台の車に乗り合わせて夜のブルックリンからマンハッタンに向けて走っていく。すごくNYCらしい光景だと思った。窓の外を見ると、21時過ぎにもかかわらず家族連れや若い女性の1人歩きを多く見かける。マンハッタンの市街地は想像以上に治安が良いようだ。
 ラガーディア空港からおよそ30分ほどでホテルに到着。あっという間だ。金額は約30ドル。この時間帯に楽に安全に迷わず早くホテルへ向かえるんだったら安いものだと思う。この経験から、NYCにてタクシーを使う選択肢はもうなくなった。乗るならUberかLyftだ! そりゃあタクシー業界も焦るわけだ。
 
 ホテルのロビーに駆け込み、早々にチェックインを済ませる。『THE RIDE』の乗車時刻までそれほど余裕がない。ひと息つく間もなく、最小限の手荷物以外はすべて部屋に置いて夜のミッドタウンへ飛び出した。タイムズスクエアもブロードウェイもホテルから徒歩10分圏内だ。

マンハッタンで光を浴びる

 成田を発ってちょうど24時間。
 機内で何度か睡眠をとりつつもひたすらに移動しつづけて、ようやく降り立ったマンハッタン/ミッドタウンは絵に描いたような繁華街だった。「土曜日の夜はにぎやか」なんてもんじゃない。
 デジタルサイネージと仮装と路上パフォーマンスが真夜中をまぶしく照らしつづけている。ハロウィーンやワールドカップの夜の渋谷、あれくらいの騒ぎがミッドタウンでは毎週末繰り広げられているのだろう。

 消防車にバットマンの人形がくくりつけられているのを見て、(NYCのご当地ヒーローならスーパーマンやスパイダーマンじゃないの? と思いつつも)ついシャッターを切ってしまった。
 
 『THE RIDE』の乗り場はブロードウェイの一角にある。タイムズスクエアを横目にブロードウェイへ入ると、イメージ通りの景色が広がっていた。


 いろいろ目移りしてしまうが、まずは『THE RIDE』だ。乗り場はすぐに見つかった。乗車待ちの行列ができている。iPhoneでQRコードのチケットとNew York Passを見せると、行列の先頭へ案内された。そういえば、最前列のシート(要追加料金)を選んだ気がする。

 『THE RIDE』はマンハッタン(主にミッドタウン)を周遊するエンターテイメントバスだ。乗車時間は1時間ほど。通常のバスと違い、座席はすべて進行方向に対して左側を向いている。車内に男女2人のMCがいて、トークや歌で盛り上げながら案内してくれる。マンハッタンの名所を紹介するだけでなく、路上の歩行者が急にパフォーマンスを始めたりするのも特徴だ。
 歌ったり踊ったりのパフォーマンス要素が多いのだろうと想像していたが、意外にトークの比率が大きかった。MC2人がネイティブのスピードでぺらぺらと喋るので、集中しないと(集中しても)全然話についていけない(日本語解説付きの回もあるらしいが、今回の滞在期間中にはなかった)。それでもコールアンドレスポンスや身振り手振りのパフォーマンスはわかるし、通りすがりの人々に手を振ったりするのはシンプルに楽しかった。到着初日に乗れてよかったと思う。ただ、別料金を払ってまで最前列のシートに座る必要はなかったかも。
 

 『THE RIDE』を降り、あらためてタイムズスクエアのほうへ歩いてゆく。時刻は24時をまわろうとしているが、街は時間感覚を失いそうなほどの光と熱気にあふれている。
 その気になれば何時まででも居られそうだが、翌日以降の予定もあるし、いい加減シャワーも浴びたいし、今夜は早々に部屋へ戻ることにした。帰り道に飲み水だけ購入。
 
(2日目へつづく)