はじめに
以下の文章は、2018年2月8日放送のFM802「BEAT EXPO」に、小沢健二氏がゲスト出演した際の朗読「大阪の話をしてください」の書き起こしです。
耳で聞いた内容をもとに書き起こしているので、一部誤っている可能性もありますし、漢字の使いかたや段落の構成などは書き起こした僕の判断によるものとなっています。
放送から1週間以内であれば、radikoのタイムフリー聴取が可能なので、radikoが聴ける環境にある人はぜひ、小沢氏の肉声でお聴きください(FM802の聴取圏外でも、radikoプレミアムの会員になれば聴けます)。
radiko.jp
あくまで「朗読」のために書かれた文章であり、それを聞いて書き起こしたもの。
という前提のもと、以下の文章をお読みいただければ幸いです。
※追記:2018/2/18
2018年2月18日放送のFMCOCOLO「SUNDAY MARK'E 765」に小沢健二氏がゲスト出演した際も「大阪の話をしてください」が朗読されましたが、「BEAT EXPO」出演時のものとは一部違いがありました。
番組の放送順は「BEAT EXPO」⇒「SUNDAY MARK'E 765」でしたが、実際に朗読した順序は「SUNDAY MARK'E 765」(2月8日の日中に録音)⇒「BEAT EXPO」(2月8日の夜に生放送)なので、「BEAT EXPO」版のほうが最終稿みたいな形だと思われます。ただ、終盤には「SUNDAY MARK'E 765」版にしか存在しないパートがあるのもなかなか興味深いところ。
この機会に、どの部分がどのように変更されたかわかるように修正を加えてみました。「SUNDAY MARK'E 765」版にしかなかった部分はオレンジ色で、「BEAT EXPO」版にしかなかった部分は緑色で表記しています。
「BEAT EXPO」オープニング
(♪番組オープニングジングル)
こんばんは、小沢健二です。
えーっと、今、生放送で出ています。
えー最初、なんか、朗読をしてみます。
題して「大阪の話をしてください」という話です。
「大阪の話をしてください」
僕のような、東京の匂いがする人が大阪に来る。
すると彼はやたらと大阪の話をする。
「僕と大阪の関わりは意外と(に)深くて」とか。
そして大阪人のあなたに、やたらと大阪の話をしてもらいたがる。
そういう「やばい東京人」は、「あなたは大阪人なんだから大阪の話だけしてよ」みたいな態度で、とにかく話を大阪の方向にもっていく(話にしたがる)。
そして、優しい大阪人であるあなたは、東京人に合わせて「そうですよね、大阪では」とか、たくさんの大阪の話をしてくれる。
本当は、あなたには(大阪人のあなたは大阪の話なんか飽き飽きしていても。本当は)、大阪の話なんかじゃ(し)なくても、いっぱい他の話があるんだけど(も)。
(さらに。)「さらにやばい東京人」の場合、もしもあなたが最近行った九州の話なんか始めたら、「おい、なんで九州の話なんかしてるんだよ、大阪の話しろよ」くらいの顔つきになる。
「大阪人は大阪の話だけしててよ(してよ。他のことは話さないでよ)」みたいな態度。
本当はあなたは普通に、前にハワイに行ったときの話とか、ヨーロッパのサッカーの話とかしたいのに。
でも、心優しい(大阪人の)あなたはいつも大阪の話をしてくださる(のです)。
「この話もう飽きてるんだけどなー」と思いながらも。
さて、その大阪人のあなたが東京に(へ)行く。
「東京ってこうだなー」と自分の東京論をもつ。
その東京論を「やばい東京人」に話すと、「ああ、それって(は)大阪って(が)こうだからでしょ?」と、またなぜか大阪の話になってしまう。
「大阪ってこうだからねえ、だから東京をそう感じるんだよねえ」などと、大阪を決めつけられてしまう。
ちょっと待て。俺はただただ東京の話をしたいんだよ。なんでいつも大阪の話に返って(戻って)くんだよ!
と、あなたは正直(正直あなたは)思うが、心優しいあなたはやっぱり、せっかく東京にいるのに(やっぱり)大阪の話をしてくれる。
「大阪人は必ず大阪の話をしてください」みたいな、暗黙のプレッシャー。
これは、実は、日本人がアメリカにいるときのプレッシャーとそっくりである。
アメリカ人といってもいろいろいるけど、この場合、俳優のマット・デイモンみたいな人を想像してほしい。
彼らは相手が日本人とみると、やたらとSUSHIの話とかをしたがる。
日本について持っている浅はかな知識をじゃんじゃん並べたてる。
そして「僕の友人の彼女のルームメイトが日本人で、だから僕は日本文化を知っているんだ」みたいな、「(おい)それ全然遠いぞ」という(みたいな)ところから自分の日本論をぶちまける。
そして日本人であるあなたに、とにかく日本の話をさせたがる。
「日本はやっぱりBUSHIDOの伝統があるからねえ。そうじゃない?」とか、同意を求める。
そして心優しい日本人のあなたは、おかしくもないのにクスクス笑いながら「そうですねー、BUSHIDOの影響かもしれませんねー」などと話を合わせる(てしまう)。
もちろんあなたはBUSHIDOってなんのこっちゃと思うし、GEISHAとかまったく知らないし、そもそも日本の話なんかじゃなくて、去年アフリカに行ったときの話とかをしたいのに。
でも、そのメインストリームのアメリカ人は、日本人がアフリカの話をする(している)のなんて時間のむだだと思うのだ。
「日本人は(なら)、俺が知ってる感じの日本の話をしてください。日本人は俺が日本について言うことに相槌を打ってください」みたいな態度。
実は、まずいことに、その日本人の方にも用意ができていて、日本人同士ではBUSHIDOの話もGEISHAの話もまったくしないのに、「やばいアメリカ人」と話すときになるとつい、「そうですねー、(やっぱり)GEISHAがー」とか「BUSHIDOがー」と調子を合わせるくせがついていたりする。
さて。そのマット・デイモンみたいなアメリカ人は、あなたには日本のことだけをしゃべってほしい一方で、自分自身はすべてのことについて持論をぶちまける。
「アフリカってこうだよねー」「日本ってこうだよねー」「インドってこんなでさー」と、世界中のことに意見がある。
そして、アメリカ自体のことは「あ、アメリカ? 別に普通。あなたも知ってるでしょ?」みたいな感じ。
これはちょうど、「やばい東京人」が「あ、東京? あなたもテレビとかで見てるでしょ? 知ってるでしょ? 普通でしょ? それより、大阪の話をしてよ」と言うのに似ている。
僕はときどき、メインストリームのアメリカ人と話しているとき、わざと日本の話をしないようにする。
すると、メインストリームのアメリカ人は落ち着かなくなる。
彼はどうしても僕に、日本の話をしてほしいのだ。
アメリカについて僕がどんなによく勉強して知っていても、日本人の僕には日本のことしか話す資格が無い、と思っているのだ。
だからこそ、いたずらで、わざと、全然日本の話をしないことがある。
そういうことって、ありますか。
もちろんご安心ください。
心あるアメリカ人たちの間では、マット・デイモン的な「自分は何の話でもする資格があるが、あなたには限られた話をする資格しか無い」みたいな態度は、最悪なものとして知られている。
とくに最近、「マット・デイモン的なノリはやばい」と語られている。
だって、「あなたには大阪の話しか(あるいは日本の話しか)する資格がない」なんて、そんなわけないじゃん。
そういうことって、思い当たりますか。
「大阪人は俺が知ってる感じの大阪の話をしてください」みたいな感じ、感じること、ありますか。
おしまい。
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