初の著書『音楽が聴けなくなる日』(集英社新書)が出ました

 久しぶりの更新となってしまいました。かがりはるきです。
 皆さま、お元気でしょうか。
 先日、ある方とやり取りしていたときにいただいた文末の言葉が「お元気で!」だったのですが、こんなにシンプルな言葉がこんなに重みをもつようになるのか――と(良い意味で)ショックを受けました。それ以来、意識的にいろんな人へ「お元気で」と言うようにしてます。
 当の僕はというと、体調を崩してこそいないものの、最大HP・MPが目減りしちゃって休んでも休んでも小まめな回復が必要な感じというか。直接的な影響は無くても、日常生活で気を張りつづけなきゃいけないだけでけっこう「消耗」させられるものですね……。
 
 さて本題です。
 
 当ブログでもいろいろと経緯をお知らせしてきた電気グルーヴの作品自粛に対する署名活動。その流れから、初めての著書を出しました。

※5/15 13:30追記
現在Amazonでは在庫切れになってます。定価902せっかくなのでそれ以外のお店でご購入いただけると幸いです!
(↑の集英社新書さんの紹介ページに販売店情報がまとまってます)

 発売日は5月15日(今日!)。
 版元&レーベルは集英社新書(大手!)。
 タイトルは『音楽が聴けなくなる日』(物騒!)。
 宮台真司先生永田夏来先生との共著です(肩身が狭い!)。
 帯の推薦コメントはなんと坂本龍一教授にご寄稿いただきました(ますます肩身が狭い!)。
 
 ……と、大変に大変なことになっております。
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 なんといってもこの表紙のインパクト!
 僕以外みなさん教授ないし准教授であらせられます。市井の音楽研究家(なにそれ?)が混ざっていいのか。
 

本の内容

 肝心の内容ですが、3人の著者それぞれの担当パートごとに分かれた全三章構成です。
 
 第一章『音楽が聴けなくなった日』は、永田先生による署名活動の振りかえりと分析。
 第三章『アートこそが社会の基本だ』は、宮台先生による「自粛」の正体の解題。
 そこに挟まれて僕が担当している第二章『歴史と証言から振り返る「自粛」』では、章題のとおり、音楽に対する自粛の「歴史」、“当事者”の方々へのインタビューすなわち「証言」の2パートに分かれています。
 
 まず自粛の歴史ですが、ここ30年間ほどのミュージシャンの逮捕とそれに対する自粛がどのように変化してきたか――を、時系列順に紹介しています。今までニコ生やDOMMUNEなどでお話ししてきたことの総まとめですね。本書の巻末に「音楽自粛小史」を載せているので、そこと併せてお読みいただくのがオススメです。
 とくに重要な事件については紙幅を割いて詳しく書いてますし、中でも大きなターニングポイントであった1999年の槇原敬之さんの(1回目の)逮捕については、我々より先んじること20年前にレコード会社に対して自粛反対の署名活動をおこなった大先輩にもお話を伺えました。
 それと本書でも軽く触れてますが、今年2月の槇原敬之さんの2度目の逮捕がまた大きなターニングポイントになりそうです。というのも、今回は自粛が無いんですよね(新譜のみ発売が延期中)。本書にて書ききれなかった部分をあとで当ブログにて補足しようと思ってますが、 音楽作品の自粛は、槇原敬之(1999年)に始まり槇原敬之(2020年)に終わったかも――? というのが今の僕の仮説です。
 
 また後半では、3人の自粛の“当事者”の方々から証言を伺っています。
 1人目は自粛を経験されたミュージシャン、高野政所さん。最近はストリートテクニック(街頭技巧)の伝道師として活躍中の政所さんですが、ご自身の逮捕歴を著書『前科おじさん』(スモール出版)で赤裸々に書かれていたり、昨年3月(つまり瀧さん逮捕の直後)にも*1複数のメディアで発言したりなど、この件を当事者として語れるお方は他にいない! と直接お話しを伺った次第です*2。政所さんがDJ JET BARON名義でユニバーサルからリリースした『ENAK DEALER』、自粛から5年以上経っても未だに聴けないままなんですよね。その後に出荷停止・配信停止になったASKAさん関連の作品はユニバーサルからとっくに再発されてるのに。
 続いて2人目は、CHAGE and ASKAのマネジメント事務所・ロックダムアーティスツの元代表取締役、大崎志朗さん。つまり「所属アーティストの逮捕」に対し、マネジメント事務所の代表はどう対応し、それに対する世間の対応をどう捉えているか、といったお話です。大崎さんはあまり表に出ることのない方ですが、昨年3月(まさに瀧さん逮捕の直後)に「“自粛”という得体の知れない存在、アーティストの不祥事と作品の自粛について」という当事者でしか書き得ない文章を発表されています。我々が署名活動を進めるうえでも大崎さんのこの文章に背中を押された部分が大きいため、この機会に直接お話を伺いました。
 そして最後に登場いただいたのが、Only Love Hurts代沢五郎さんです。面影ラッキーホールのsinner-yangさん、という旧名義でピンとくる人も多いでしょう。しかし、ミュージシャンとしての面をご存知であっても、代沢さんの本業が大手レコード会社の幹部だったことを把握している人はつい最近までほぼいなかったはず。なにしろ、それが公になったのは、昨年3月(たまたま瀧さん逮捕の直後)に公開された石丸元章さんとの対談記事です。僕が知る限り、レコード会社の内幕をこんなに冷静かつ赤裸々に語っている方はこれまで見たことがない。実際にお話を伺ったところ、やはり外からではわからない様々な内幕が明らかになりました。
 
 ――と、僕の担当パートをざっと説明しただけでもこの充実っぷりです。さらに、宮台先生や永田先生のパートに関してはもちろんこれ以上の読みごたえを保証いたします。
 
 また、本を出版する過程においては著者のみならず、さまざまなプロの方々の存在が欠かせないわけですが、こと今回は校閲の方々のお仕事に感動しました。本書、とくに僕の担当パートは事件の日付とか求刑とか判決とか会社名とか、とにかくいろいろと間違えちゃいけない情報が山ほどありまして。この場を借りて深く御礼申し上げます。
 
 どうですか、これだけ盛りだくさんの内容でお値段たったの902円(税込)!
 

販売ページ一覧

 『音楽が聴けなくなる日』を購入できるネット書店のページを一気にご紹介します。
 ほんとは「こんなときだからこそ、みなさん実店舗で購入してください!」とか言いたいところですが、書店へ足を運ぶこともままならない状況の人もおられるでしょう。皆さまにとってちょうどいい手段をお選びいただけると幸いです。

 集英社新書さんの紹介ページにも販売店さんのリンクがまとまってます。
 

世界中が「自粛」しているときにこそ

 ところで。
 本書の企画が動きだしたのは、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影も形もなかった頃でした*3
 なので「音楽が聴けなくなる」という言葉の意味がより重くなってきた今このタイミングで刊行されるのはまったくの偶然ですし、本書の追い込み作業と並行して世の中の混乱が増していく様子をみて「変なタイミングで出ることになっちゃったな」と思っていました。最初は。
 でも、音楽、ひいては世界中の日常そのものが「自粛」にまみれている状況でこそ、読まれる意味のある本になっているのでは、と今は思ってます。
 これはこじつけでもなんでもなくて、1年前に我々が対峙した「自粛」も現在のコロナ禍における「自粛」も、直接の原因こそ異なれども、そのなかで多くの人たちが感じている息苦しさの正体はまったく同じなんだろうと思います*4
 そして、おかしいと思うものごとに対して声をあげることの重要さは、今まさに実感してる人も多いのではないでしょうか。
 
 さいわい、‪外へ出られなくても本は読めます。
‬ いつかまた人々と触れあいながら音楽を聴けるような「日常」が戻ってくるのを待ちながら、ぜひ本書をお読みいただきたいと願っております。 
 
 なお最近の僕は、「コロナ禍における自粛」をテーマにちょっとずつ調査を進めてます。
 渦中*5にあってはなかなか自粛の全貌がみえないものの、こういうものはリアルタイムで「記録」していかないとどんどん風化してしまうはず。正直なところ、まだどういう形でアウトプットするかも全然決めてませんが、なかなか良い手応えを感じてます。
 
 それでは皆さん、お元気で!

*1:逮捕・自粛を経験したミュージシャンであり、なおかつ電気グルーヴのフォロワーでもある両方の視点から

*2:個人的には、タマフルやザ・トップ5などを長年聴いてきているので、いちTBSラジオリスナーとしてもすこぶるテンションの上がる取材でした。

*3:最初の打合せで「刊行記念のトークイベントとかやりたいですね」なんて話をした記憶もあります

*4:陰謀論的な話じゃないですよ、念のため

*5:この場合は「禍中」とすべきかも